時代の転換点演説

時代の転換点演説：ドイツの国防政策の大転換

2022年2月27日、ドイツのオラフ・ショルツ首相は、連邦議会で歴史的な演説を行いました。この演説は、ロシアによるウクライナ侵攻という未曽有の事態を受け、ドイツの国防政策を根本的に見直すことを表明したものであり、ショルツ首相自身がこの状況を「時代の転換点（Zeitenwende）」と表現したことから、そう呼ばれています。この演説は、ドイツだけでなく、国際社会にも大きな影響を与えました。

演説の背景

ロシアがウクライナ国境付近に大規模な軍隊を配備し、NATOに対してウクライナの加盟を認めないよう要求したことが、今回の事態の引き金となりました。西側諸国がこの要求を拒否し、ウクライナへの軍事支援を強化する一方で、ドイツは慎重な姿勢を批判されていました。特に、ロシアのエネルギー企業ガスプロムが資金を提供するガスパイプライン「ノルドストリーム2」の認証を一時停止するかどうかについて、ショルツ首相が明確な態度を示さなかったことが批判の的となりました。ショルツ首相は、ロシアのプーチン大統領との会談のためモスクワを訪問しましたが、一部の評論家は、これをドイツの弱さの表れと解釈しました。しかし、2月22日にプーチン大統領がウクライナ東部への軍隊派遣を命じた後、ショルツ首相は「ノルドストリーム2」の認証を阻止することを発表しました。

2月24日、ロシアはウクライナへの侵攻を開始しました。プーチン大統領は、この侵攻を「特別軍事作戦」と表現しましたが、西側諸国はこれを強く非難しました。

演説の内容

2月27日の演説で、ショルツ首相はロシアのウクライナ侵攻に対する政府の対応を説明し、ドイツの防衛政策の根本的な見直しを発表しました。具体的には、ドイツ軍の強化に向けた基金に1000億ユーロを振り分ける方針を示し、2024年までにGDPの少なくとも毎年2%を国防費に充てることを表明しました。このGDP2%の国防費目標は、ショルツ首相が率いる社会民主党（SPD）が伝統的に反対していたものであり、NATO加盟国の義務でもあります。ショルツ首相は、ヨーロッパの平和に対するロシアの脅威によって、既存の防衛政策からの離脱を正当化し、この状況を「時代の転換点」と表現しました。

演説の中で、ショルツ首相は次のように述べています。「私たちは時代の転換点を目の当たりにしています。世界がこれまでと同じものではなくなるということです。究極的に問われているのは、力で法を破ってもよいのか、19世紀の列強の時代へとプーチンに時計の針を戻させてよいのかということです。それとも、プーチンのような戦争屋に一線を越えさせないよう力をふりしぼっていくのか。そのためには私たち自身に強さが必要です。」

政策の変更と具体的な行動

国防予算の増額に加え、ドイツはウクライナへの軍事支援も開始しました。2022年9月までに、「ゲパルト自走対空砲30両、PzH2000自走榴弾砲10門、MARS多連装ロケット砲3両、その他各種の軽量武器」をウクライナに供与しました。しかし、重火器の提供は遅れており、野党からはドイツ製のレオパルト戦車とマルダー歩兵戦闘車の供与を求める声が上がっていました。その後、2023年1月5日には、アメリカのバイデン大統領との共同声明で、ドイツがマルダーを、アメリカがM2ブラッドレー歩兵戦闘車をウクライナに供与することが発表されました。さらに、長距離地対空ミサイル「パトリオット」もウクライナに送ることを約束しました。2023年の初めには、ドイツ政府にレオパルト戦車の供与を求める圧力がさらに強まり、1月25日には、レオパルト2を保有する国がウクライナへ供与することを認める方針を示し、ドイツ軍から14両のレオパルト2をウクライナに供与すると発表しました。

演説への評価

この演説は、ドイツ国内外の政治家から概ね好意的に受け止められました。連邦議会では、左翼党とドイツのための選択肢（AfD）を除くすべての政党の支持を得て、ロシア政府を非難する動議が可決されました。野党のキリスト教民主同盟（CDU）の党首であるフリードリヒ・メルツは、ショルツ首相の防衛計画を支持しましたが、同時に、首相の所属政党の以前の姿勢は親ロシア的であると批判しました。経済相のロベルト・ハーベックは、新しい政策を支持し、過去のロシアに対する認識が誤っていたことを認めました。NATOのストルテンベルグ事務総長は、ドイツの新たな取り組みを称賛し、ショルツ首相の約束を「我々の国々の安全保障と自由への重要な投資」と表現しました。世論調査によると、ドイツ国民の78％が提案された政策を支持しています。

しかし、左翼党は、軍事費の増額を批判し、アミラ・モハメド・アリ議長は、ショルツ首相が軍拡競争に関与していると非難しました。AfDのアリス・ワイデルは、NATOがウクライナの加盟の可能性を考慮したことが「歴史的な過ち」であると主張しました。与党連合の一部も、ショルツ首相が重火器の供与に抵抗したことに異議を唱え始めました。

ガーディアン紙のパトリック・ウィンターは、ショルツ首相の提案を「180度の軌道修正」と表現し、ドイツが「経済だけでなく地政学的な大国」になったと述べました。欧州議会議員のセルゲイ・ラゴディンスキーは、ドイツは外交政策の手段として軍事介入を行う方法を学ぶ必要があると主張し、ドイツのロシアとの緊密なエネルギー関係は「過去20年間で最大の戦略的過ちの1つ」であると指摘しました。

「Zeitenwende」は、この演説以降、政治的なキャッチフレーズとなり、2022年のドイツの流行語大賞に選ばれました。

まとめ

オラフ・ショルツ首相の「時代の転換点」演説は、ロシアのウクライナ侵攻という危機的な状況を受け、ドイツの国防政策を根本的に見直すという歴史的な転換点を示すものでした。この演説は、ドイツ国内だけでなく、国際社会にも大きな影響を与え、今後の国際情勢を考える上で重要な意味を持っています。

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