PzH2000自走榴弾砲

パンツァーハウビッツェ2000 (PzH2000): ドイツが誇る高性能自走砲

パンツァーハウビッツェ2000（PzH2000）は、1998年からドイツ連邦軍に配備されている自走榴弾砲です。その高い性能から、ドイツのみならず、多くの国で採用されています。

開発の背景

1970年代、西ドイツ、イギリス、イタリアは共同でM109自走榴弾砲の後継となるSP-70を開発していましたが、技術的な問題から1986年に開発は中止されました。その後、ドイツは独自に新たな自走榴弾砲の開発に着手しました。当時運用していたM109A3G自走榴弾砲の改良による延命措置と並行して、1987年より次世代自走榴弾砲の開発が始まりました。2000年の実戦配備を目指し、「パンツァーハウビッツェ2000（装甲榴弾砲2000）」と命名されました。

開発にあたっては、以下の点が重視されました。

ロケット補助推進弾なしで30km以上の射程
自動装填装置による高い発射速度
60発の弾薬と装薬の搭載能力
高い機動力と信頼性
独立戦闘を可能とする自律的システム
トップアタック対策

クラウス＝マッファイ社やラインメタル社を中心とするチームと、ヴェクマン社やMaK社を中心とするチームが試作車を競作し、運用試験の結果、ヴェクマン社の案が採用されました。1996年3月には185両の生産契約が結ばれました。

生産はヴェクマン社、MaK社、クラウス・マッファイ社、ラインメタル社など12社が協力して行われ、1997年から2002年までに185両が生産されました。1998年6月には最初の生産型がドイツ連邦軍に引き渡され、危機対応部隊に配備されました。

構造と性能

PzH2000は、装甲防御を強化するために、車体と砲塔に圧延防弾鋼板を使用しています。車体前部左側には、V型8気筒液冷ディーゼルエンジン、自動変速機、ラジエーターなどのパワーパックが配置され、右側には操縦室があります。車体後部は砲塔を含む戦闘室となっています。

主砲には、ラインメタル社が開発した52口径155mm榴弾砲「ランゲスロール」を採用しています。砲身長は8.06mに達し、砲身先端には多孔式の砲口制退機が装着されています。

MTLS（Modulares Treib Ladungs System、モジュラー式装薬システム）を使用することで、L15A2通常榴弾で最大30km、ベースブリード榴弾で40kmの射程を実現します。

ヴェクマン社が開発した電動式の自動装填装置により、高い装填速度を実現しています。この装置は砲の仰俯角に合わせて自動で調整されるため、射撃ごとに砲を水平に戻す必要がありません。弾倉には60発の砲弾と、48本の装薬嚢、または288個のモジュラー式装薬を収容できます。自動弾薬データ管理装置により、使用目的に応じて弾種を選択でき、薬莢式弾薬と分離式弾薬の両方を使用可能です。緊急時には手動操作も可能です。

射撃速度は非常に高く、10秒間に3発、1分間に8発、3分間に20発の発射が可能です。24時間で37の異なる目標に対し、300発（約18t）の砲弾を発射できます。

GPA2000砲照準・航法システムにはGPSが組み込まれており、MICMOSデジタル弾道コンピュータなどの射撃管制装置が、目標や弾薬の情報などの射撃データを自動管理します。砲塔には複数の照準器や初速測定器が装備されています。ライカ社製のRTNL80射撃ペリスコープは、夜間暗視装置とレーザー測遠機を内蔵し、戦車を直接照準射撃で撃破することも可能です。

基本装甲は14.5mm重機関銃弾の直撃や152mm榴弾の破片に耐えることができます。装甲板の内側には、被弾時の破片飛散を防ぐライナーが貼られています。実戦時には、砲塔上面を中心にゴム突起が設けられた追加防護パッケージが装着され、成形炸薬弾の効果を減殺します。NBC防護システムも標準装備されています。

車体にはレオパルト1およびレオパルト2戦車のコンポーネントが流用されており、戦闘重量は55.33tと重量級ですが、MTU社製のMT881 V型8気筒多燃料液冷ターボチャージャー・ディーゼルエンジン（1,000hp）と、レンク社製のHSWL284自動変速機により、路上最大速度60km/hの機動性を発揮します。転輪、履帯、トーションバー・サスペンションはレオパルト1戦車のものが流用されています。

PzH2000は即応射撃能力に優れており、M109自走榴弾砲の5倍以上の速さで射撃準備が可能です。陣地進入から砲撃までの準備時間はわずか30秒、8発の砲撃に必要な時間は1分、撤収時間は30秒です。

運用実績

2022年のロシアによるウクライナ侵攻に伴い、ドイツなどが保有するPzH2000がウクライナへ供与され、戦闘に投入されています。供与による減少分を埋めるため、2024年には生産が再開されました。

各国の採用状況

ドイツ：154両
イタリア：70両
オランダ：36両
ギリシャ：25両
リトアニア：21両
クロアチア：12両
カタール：24両
ウクライナ：供与

PzH2000は、オーストラリアやスウェーデンでも検討されましたが、最終的には採用されませんでした。

関連項目

自走砲
榴弾砲
* AGM (モジュール)

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