時津風 (陽炎型駆逐艦)

時津風: 激動の艦歴を辿った陽炎型駆逐艦

時津風は、大日本帝国海軍の駆逐艦であり、陽炎型駆逐艦の10番艦として知られています。帝国海軍において時津風と名付けられた艦艇としては3隻目（書類上は2隻目）にあたり、初代は磯風型駆逐艦でした。

建造と初期の活動

時津風は浦賀船渠で建造され、昭和14年(1939年)2月20日起工、同年8月25日、姉妹艦である天津風と共に命名されました。同年11月10日に進水し、昭和15年(1940年)9月1日には、中原義一郎中佐が時津風の艤装員長に任命されました。中原中佐は、白露型駆逐艦夕立の艤装員長と初代艦長を務めた経歴を持つ人物でした。時津風は同年12月15日に竣工し、中原中佐は初代艦長に就任しました。呉鎮守府に籍を置き、浦賀船渠で建造された陽炎型駆逐艦としては3番目でした。

竣工時点では、陽炎型駆逐艦は舞鶴海軍工廠、浦賀船渠、藤永田造船所、神戸川崎造船所、佐世保海軍工廠の5箇所の造船所で建造されており、時津風は浦賀船渠で建造された艦艇でした。第二水雷戦隊第16駆逐隊は、当初黒潮、初風、雪風で構成されており、紀元二千六百年特別観艦式にも参加していましたが、時津風と天津風の就役により、黒潮は第15駆逐隊に転属しました。

昭和16年(1941年)7月には、第16駆逐隊司令が交代し、9月には第二水雷戦隊司令官も交代しました。太平洋戦争開戦時、時津風は第二水雷戦隊第16駆逐隊に所属し、雪風と共に第1小隊を編成していました。他の駆逐隊は南方部隊や南雲機動部隊に所属していたため、第二水雷戦隊の直接指揮下にはありませんでした。

太平洋戦争緒戦

太平洋戦争開戦後、第二水雷戦隊は南方攻略作戦に参加し、時津風も各地で活動しました。フィリピン攻略後は蘭印作戦に投入され、激戦が続きました。この間、日本の駆逐艦の損失も発生し、昭和17年(1942年)2月には、第15駆逐隊所属の夏潮が米潜水艦の攻撃により沈没するなど、戦況は厳しさを増していました。

時津風は2月27日、スラバヤ沖海戦に参加し、戦闘後には連合軍艦艇の生存者を救助しました。その後、西部ニューギニア作戦やミッドウェー作戦にも参加しましたが、アメリカ軍艦隊との直接交戦は避けられました。7月には、輸送船南海丸を護衛して呉を出発し、途中艦隊再編により第十戦隊に編入されました。その後、ラバウルへの進出や第八艦隊旗艦鳥海の護衛任務などを遂行しました。8月には、工作艦明石や重巡洋艦最上を護衛してトラックから呉へ帰還しました。

ガダルカナル島の戦い

ガダルカナル島の戦いが始まると、時津風は第三艦隊と合流して第一航空戦隊を護衛、第二次ソロモン海戦では空母龍驤の護衛任務に就き、龍驤沈没後は乗組員の救助活動を行いました。9月には、中原中佐が第24駆逐隊司令に任命され、時津風の艦長は本倉正義中佐に交代しました。

その後、空母大鷹の護衛任務や南太平洋海戦への参加、瑞鶴の護衛による日本本土への帰還など、多くの作戦に参加しました。空母龍鳳の護衛任務では、龍鳳が米潜水艦の攻撃を受け損傷したため、横須賀に引き返しました。瑞鶴の護衛任務にも就き、昭和18年(1943年)1月には、ガダルカナル島撤収作戦の第六次輸送作戦にも参加しました。この作戦で、時津風はアメリカ軍魚雷艇を撃沈する活躍を見せました。その後もガダルカナル島への輸送作戦に参加するなど、最前線で活動を続けました。

ダンピール海峡の悲劇

昭和18年2月、時津風は「八十一号作戦」に参加し、ラエへの増援輸送に従事しました。しかし、3月3日、ダンピール海峡でアメリカ軍機とオーストラリア軍機の空襲を受け、爆弾の直撃により被弾、航行不能に陥りました。時津風は乗員を雪風に収容した後、自沈処分されたとされていますが、沈没せず漂流しているのを日本軍が発見し、アメリカ軍に鹵獲されるのを防ぐため、日本軍機が攻撃を試みましたが撃沈できませんでした。最終的に、アメリカ軍の爆撃により撃沈されたとされています。

時津風は、その短くも激しい艦歴の中で、多くの海戦に参加し、様々な役割を担いました。その活躍と悲劇的な最期は、太平洋戦争における日本海軍の奮闘と犠牲を象徴するものです。

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