晋州城攻防戦

文禄の役 晋州城攻防戦

晋州城攻防戦は、文禄の役における朝鮮半島南部の要衝、晋州城（現在の韓国・晋州市）を巡る二度にわたる激しい攻城戦です。文禄元年（1592年）に行われた第一次攻防戦では朝鮮側の堅固な守りが日本軍の攻撃を退けましたが、翌文禄2年（1593年）の第二次攻防戦では、日本軍が大規模な兵力と新たな攻城技術を投入し、ついに城を陥落させました。

第一次攻防戦：文禄元年（1592年）

背景と戦いの直前

文禄の役が始まると、日本軍は短期間で朝鮮半島を北上し、首都の漢城（ソウル）を経て平壌や咸興といった遠方の地まで進出しました。予想以上に順調な進撃により、主要な侵攻ルートから外れていた晋州城への攻撃を検討する余裕が生まれました。晋州城は、朝鮮においては平壌城と並び、容易には落ちない堅固な城郭として認識されていました。

晋州城の攻略作戦が発動されると、細川忠興や長谷川秀一、木村重茲らを指揮官とする約2万の日本軍が編成され、釜山を出発しました。進軍途上の昌原では、慶尚右兵使の柳崇仁が官軍と敗兵を率いて抗戦しましたが大敗し、柳崇仁自身も戦死しました。敗走した柳崇仁は後方の晋州城への入城を試みましたが、守将であった晋州牧使の金時敏は日本軍の追撃を恐れて城門を開けることを拒否しました。

攻防の経過

10月4日、咸安を経由して到着した日本軍による晋州城の包囲が開始され、6日には本格的な攻撃が始まりました。城内では、金時敏を中心に昆陽県監の李光若らが指揮する約3800名の兵士に加え、多数の避難民が力を合わせて防戦に努めました。また、城外では郭再祐に率いられた慶尚道の義兵約1200名が日本軍の背後を撹乱しました。さらに7日夜には、全羅道で再編成された崔慶会や任啓英らの軍勢約2500名が到着し、城外から遊撃戦を展開して日本軍を牽制しました。

日本軍は一時的に攻城を中断し、城外の遊撃軍に対応しました。10日の朝、攻撃を再開しましたが、晋州城の攻略が困難であると判断し、長期戦を避けて退却しました。旧参謀本部編纂の史書『日本戦史 朝鮮役』によれば、城外からの援軍は日本軍と直接交戦するのではなく、遠方から声援を送ることで牽制に留まったとされています。

この攻防戦で城の防衛の中心であった金時敏は、日本軍の鉄砲を受けて重傷を負いました。朝鮮軍には、退却する日本軍を追撃する余力はありませんでした。こうして第一次晋州城攻防戦は、朝鮮側の防衛成功という形で終結しました。重傷を負った金時敏は攻防戦後に傷が悪化して亡くなりましたが、日本側では彼を官職の発音から「もくそ」（朝鮮語でモックサ）と呼び、「もくそ城」と呼ばれた晋州城と共にその守備を高く評価しました。後に京都で「もくそ官」として晒された首は、第一次で亡くなった金時敏ではなく、第二次攻防戦で戦死した後任の牧使、徐礼元のものです。

第一次攻防戦には、日本軍は約2万の兵力で臨み、対する朝鮮軍は城内の約3800名に加え、城外からの援軍を含めて約7500名程度が防衛にあたりました。

第二次攻防戦：文禄2年（1593年）

背景と戦いの直前

第一次攻防戦の後、和平交渉が進展する中で、日本軍の主力が漢城周辺から釜山近郊へと移動しました。これにより、兵力と補給の問題が改善されたため、和平条件の一つであった朝鮮半島南部の獲得を既成事実とするべく、再び晋州城および全羅道方面への侵攻が計画されました。

日本軍は、第二次晋州城攻略のために約4万3千の大規模な軍勢を編成しました。宇喜多秀家隊と加藤清正隊が主に包囲を担当し、小西行長、毛利秀元、小早川隆景らの部隊は後方支援や拠点での守備、築城などを担当しました。攻城戦が始まる前、晋州城の周辺各地には、明軍の副総兵である劉綎や呉惟忠らを始めとする約3万余の兵が駐屯していました。

6月14日、宜寧に集結していた朝鮮側の都元帥・金命元、全羅巡察使・権慄、慶尚右兵使・崔慶会、義兵を率いる倡義使・金千鎰ら約5万余りの軍勢が咸安へ進出し、日本軍の進軍を阻もうとしました。しかし、日本軍の先鋒隊である立花宗茂、高橋統増、小早川秀包らのわずか4千ほどの兵力に大敗し、潰走しました。朝鮮軍の一部は全州へ撤退しましたが、金千鎰を中心とする一部の兵士は晋州城に入城しました。このため、日本軍は昌原を経て咸安、宜寧を通過し、晋州城へと進軍しました。

対する晋州城内では、守城側の方針が定まらず混乱が生じました。倡義使の金千鎰ら義兵勢力は籠城を主張しましたが、明軍は晋州城の防衛に消極的であり、朝鮮軍内部でも西人派が籠城を支持する一方で東人派は消極的な姿勢を見せました。最終的に晋州城内に集結して籠城することになった兵力は、朝鮮軍の官兵約7000名と、多数の避難民だけでした。

攻防の経過と城の陥落

6月21日、日本軍は晋州城を完全に包囲すると、攻城用の高い櫓を構築したり、城の周囲の濠の水を南江に流すための大規模な土木工事を開始しました。22日からは、本格的な包囲網の構築と攻城設備の普請が進められました。加藤清正らの第一隊と宇喜多秀家らの第三隊が包囲を担当し、小西行長らは後方支援と兵站輸送にあたり、毛利秀元や小早川隆景らは朝鮮半島南部に恒久的な拠点を築くための城の普請に着手しました。

6月27日には、宇喜多秀家が晋州城へ降伏を勧告しましたが、朝鮮側はこれを拒否しました。そして29日、日本軍は装甲された攻城車両である「亀甲車」を用いて城壁を突き崩すという戦術を実行しました。城壁に開いた突破口からは、黒田長政配下の後藤基次や加藤清正配下の森本一久らが先陣争いを演じながら次々と突入し、晋州城はついに陥落しました。

城が陥落した際、籠城していた朝鮮側の多数の武将が戦死しました。これには、籠城を主導した倡義使の金千鎰とその子・金象乾、慶尚右兵使の崔慶会、忠清兵使の黄進、晋州府使の徐礼元、義兵将の高従厚、金海府使の李宗仁、巨済県令の金俊民などが含まれます。

第二次攻防戦に投入された日本軍は、総勢約4万3千に及ぶ大規模なものでした。一方、城内に籠城した朝鮮軍は、官兵約7000名に避難民を加えた兵力でした。

攻略後の動向

晋州城を攻略した日本軍は、間を置かずに全羅道方面への進撃を開始し、7月5日には求礼に、7日には谷城に進出しました。しかし、南原の守りが堅固であると判断し、9日には晋州城へと撤退しました。

この攻略戦の最中から、日本軍は朝鮮半島南部における恒久的な駐留を目指し、各地で拠点となる城郭の築城を進めていました。晋州城自体は、日本軍の撤退時に破却されました。後日、文禄2年（1593年）9月2日には、『問註所家譜』によれば、問註所統景・正白兄弟が小早川秀包の先鋒として晋州城外で明の劉綎と遭遇し戦死しましたが、立花宗茂が駆けつけて劉綎を破り、明軍を晋州城へ退却させています。

晋州城攻防戦は、文禄の役における主要な戦いの一つであり、第一次では朝鮮軍の粘り強い防衛が光り、第二次では日本軍の圧倒的な兵力と攻城技術が勝利を導きました。特に第二次攻防戦での城の陥落は、朝鮮南部における戦局に大きな影響を与えました。

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