暴力戦士

1979年 10月6日に公開された日本の映画作品です。東映東京撮影所が製作を手がけました。

物語の概要

この物語は、神戸の六甲山で開催された音楽フェスティバルを舞台に幕を開けます。そこで、東京と神戸の不良グループの間で激しい衝突が発生。その混乱の中、対立する双方のリーダーであるケンと、相手グループのリーダーの妹であるマリアが、なぜか手錠で繋がれてしまいます。二人は警察の追跡を逃れ、神戸から東京へと向かう長い逃避行を強いられることになります。

製作の背景

本作の企画は、当時東映社長であった岡田茂の発案から始まりました。彼は、アメリカでウォルター・ヒル監督の映画『ウォリアーズ』を日本公開前に鑑賞し、その新しいタイプのストリートキッズ映画に感銘を受け、「日本でも同じような衝撃的な青春映画を、1980年代を先取りする形で作り出そう」と意欲を燃やします。そして、石井輝男監督と中島信昭にその実現を指示しました。

当初、石井監督らは12、13歳くらいの非行少年たちの群像劇を目指し、各地で取材を行いましたが、その構想は次第に困難に直面します。『ウォリアーズ』に出演していた若者たちが一定の経験やスター性を備えていたのに対し、当時の日本の映画界周辺では、短期間で存在感のある若い俳優を見つけることが極めて難しかったのです。また、アメリカと日本の若者を取り巻く状況に大きな隔たりがあり、目覚ましい若者映画が生まれにくい時代背景もありました。やむなく企画の方向性を変更し、年齢層を引き上げて、暴走族のOBのような、ヤクザになることを格好悪いと感じる世代に焦点を当てることになります。当初は時間をかけて新人を発掘する予定でしたが、製作時間の制約から、東映作品への出演が初めてとなる田中健と岡田奈々という、『俺たちの旅』で兄妹役を演じた二人の起用が決定しました。加えて、時代の感覚を捉えたロックバンドの手配も行われ、クランクインに至ります。結果として、田中健は当時27歳、岡田奈々は20歳と、当初想定していた「不良少年・少女」よりもかなり上の年齢設定となりました。

キャスティング

主演の田中健は、それまで『青春の門』や『聖職の碑』といった、著名な監督による真面目な作品への出演が多かった俳優です。石井監督は彼を説得し、「悪役は後でやりたくてもできなくなるかもしれないよ」と語りかけました。本作で田中健はそれまでのイメージを覆す「不良性感度」の高い姿を披露し、石井監督も彼の演技を気に入り、以降テレビ作品でも起用しています。

ヒロインの岡田奈々もまた石井監督のお気に入りの一人となり、彼女の劇場映画復帰作として本作に起用されました。岡田自身は当時、「歌手と女優の両立は中途半端だと感じていました。だから、この作品で女優として一本立ちしたいんです。私ももう20歳になり、いつまでも可愛らしいだけの存在ではありません」と語り、歌手活動からの引退を宣言し、今後は役者として歩んでいく意志を強く示しました。岡田は歌手としては大きなヒットには恵まれませんでしたが、その愛らしい容姿から映画やテレビドラマからの出演依頼が絶えることはありませんでした。

撮影技法

本作の撮影は、一般的な劇場用映画で使用される35mmフィルムではなく、16mmフィルムで行われました。撮影された映像は、東映化工にて劇場上映可能なサイズへとブロー・アップ処理されています。

逸話

物語の中で、主人公たちが偶然乗り込んだトラックが、ロックバンドARBの移動車だったという設定でARBが出演しています。しかし、当時ARBは全く売れておらず、石橋凌は当時の状況を「飯も食えないような欠食児童状態だった」と振り返っています。プロデューサーからは「好きなものを食べなさい」と言われたり、「必ず音楽を5曲使うから」と騙される形で出演したと語っています。しかし、約束された5曲は実際には使用されず、バンドの楽曲は薄く流れる程度だったため、石橋凌は「僕の中では永遠に葬りたい出来事」だと述懐しています。

その後

本作の完成後、石井輝男監督は一時的に劇場用映画の制作から離れ、2時間ドラマなどのテレビドラマ演出を主に手がけるようになります。再び劇場用映画の監督を務めるのは、本作から14年後の1993年公開の『ゲンセンカン主人』となりました。

スタッフ・キャスト

監督: 石井輝男
企画: 橋本新一、瀬戸恒雄
脚本: 石井輝男、中島信昭
撮影: 出先哲也
音楽: 鏑木創
出演:
ケン: 田中健
マリア: 岡田奈々
ドン牛: 町田政則
ヤマト: 大蔵晶
ロック・グループ: ARB
田中一郎: 石橋凌

同時上映

本作は、関本郁夫監督、中島丈博脚本による『天使の欲望』と同時上映されました。この作品は、美しい姉妹が夜のバーをさまよい男を求める様を描いた、「日本版『ミスター・グッドバーを探して』」と評される内容でした。

外部リンク

暴力戦士 - allcinema
暴力戦士 - KINENOTE

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