曝露後予防

曝露後予防（PEP）

曝露後予防（Post-exposure prophylaxis, PEP）とは、感染症の原因となる病原体に曝露した可能性のある状況で、その後の発症を未然に防ぐために実施される医療行為です。具体的には、病原体が体内に侵入したかもしれないというリスクが生じた際に、治療薬やワクチンの投与によって感染の成立や病気の発症を抑える目的で行われます。この予防策は、ヒト免疫不全ウイルス（HIV）をはじめ、B型肝炎ウイルス、狂犬病ウイルス、C型肝炎ウイルスなどに対して行われます。

HIVにおける曝露後予防

特にHIV感染の予防において、曝露後予防は重要な手段です。針刺し事故や性交渉など、HIVに感染する可能性がある状況に晒された後に、感染のリスクを低減させるために行われる短期間の抗レトロウイルス薬治療を指します。

もしHIVに感染した可能性がある行動をとった場合、リスクに晒されてから72時間以内に抗HIV薬の服用を開始し、これを28日間継続することで、感染のリスクを大幅に減らせることが確認されています。世界保健機関（WHO）の報告では、曝露直後の開始でリスクを80%以上低減可能とされており、できるだけ速やかな開始が推奨されます。したがって、曝露後は速やかに医療機関を受診し、予防処置について相談することが最善と言えます。

曝露後予防は、リスクに晒された状況によって二つに分類されます。

職業的曝露後予防（oPEP）: 医療従事者が治療中に針刺しなどでHIVに曝露した場合。近年、日本ではこの経路でのHIV感染事例は報告されておらず、oPEPの高い予防効果が示されています。
非職業的曝露後予防（nPEP）: 性交渉や注射薬物使用など、職業以外の場での曝露。日本では性交渉後の曝露に対する抗HIV薬内服は「未承認」となっています。

なお、曝露した相手がHIV陰性である場合や、本人がすでにHIV陽性である場合は、曝露後予防の対象外です。

副作用

使用される抗ウイルス薬には、吐き気（嘔気）などの副作用が出ることがありますが、多くは軽度で、必要に応じて吐き気止め（制吐剤）などを使用することで軽減可能です。ただし、妊娠中やB型肝炎・C型肝炎感染、腎障害などがある場合は、使用する抗ウイルス薬の種類を慎重に選択する必要があります。

日本における課題

日本では原則として公的医療保険の適用外（自由診療、10割自己負担）であり、28日間の治療費用は約30万円前後と高額になる傾向があります。職業的曝露（oPEP）は労災適用となり自己負担なしで受けられるケースがある一方、非職業的曝露（nPEP）は基本的に全額自己負担です。

また、治療開始前に肝機能・腎機能、B型肝炎・C型肝炎の感染確認、nPEPの場合はHIV以外の性感染症検査なども推奨されるため、専門的な対応が可能な医療機関が限られているという課題もあります。

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