書肆山田

書肆山田：詩と芸術の灯を灯し続ける出版社

東京都豊島区南池袋に拠点を置く書肆山田は、詩、芸術、哲学、文学を専門とする出版社として、半世紀以上にわたって日本の出版界に独特の存在感を示してきました。詩集コレクターとしても知られた山田耕一によって1970年に創業され、以来、詩という表現形式の可能性を追求し、多くの作家を世に送り出してきました。

創業と初期の活動：詩の息吹を伝える

書肆山田の歩みは、1970年、岡田隆彦の詩集『海の翼』の刊行から始まりました。その後、瀧口修造、吉岡実、飯島耕一といった当時を代表する詩人たちによる作品を次々と発表し、特に豪華な装丁の限定本や、手頃な価格で書き下ろし作品を掲載した叢書「草子」は、高い評価を得ました。夭折した若き詩人、山口哲夫の詩集『童顔』の出版も、書肆山田の初期における重要な活動の一つです。池袋と渋谷の西武百貨店にあった詩書専門店の「ぱろうる」でも販売され、その独特の存在感は多くの読者に印象を与えました。

詩の普及と新たな表現の探求：ライト・ヴァースと雑誌「潭」

1980年代に入ると、書肆山田は詩集の普及版の刊行に力を入れるようになり、詩書の出版社としての地位を確立しました。この時代、大きな反響を呼んだのが「日本のライト・ヴァース」全4巻、「世界のライト・ヴァース」全5巻のシリーズです。軽妙洒脱でありながら奥深い「ライト・ヴァース」を紹介することで、この言葉は日本において広く認知されるようになりました。

1984年には、粟津則雄、入沢康夫、渋沢孝輔、中上健次、古井由吉といった錚々たるメンバーを編集同人として迎えた雑誌「潭」を創刊。9号まで刊行されたこの雑誌は、現代文学の潮流を反映する重要な役割を果たしました。また、この時期には吉岡実の重要な詩集『薬玉』、『ムーンドロップ』なども刊行されています。

「るしおる」と「りぶるどるしおる」：実験的な表現と国際的な視野

1989年に創刊された季刊誌「るしおる」とその姉妹叢書「りぶるどるしおる」は、書肆山田の活動において特筆すべき存在です。独特の紙面デザインと、普後均や加納光於といった詩人の作品を挟み込んだ装丁は、その実験的な姿勢を象徴しています。若林奮の表紙を起用した時期や、その後の一節を大きく掲載した表紙への変更など、変化に富んだ歴史も持ち合わせています。2007年の休刊まで、64号に渡って刊行され、その存在感は大きなものでした。

「りぶるどるしおる」には、「るしおる」連載を書籍化した作品に加え、中国の地下文芸雑誌「今天」の作品や、リトアニア出身の映像作家ジョナス・メカスの作品など、国際的な視野を取り入れた作品が多数収録されています。宇野邦一、前田英樹、石井辰彦、中村鐵太郎など、現代の詩壇を代表する作家たちの作品も含まれており、多様な視点を取り入れた叢書となっています。

詩集成シリーズと活版印刷へのこだわり：伝統と革新の融合

1990年代には、詩人の全作品を収録した詩集成シリーズが開始されました。池澤夏樹、高橋順子、辻征夫、伊藤聚、矢川澄子など、現代詩史に名を刻む詩人たちによる作品集が刊行され、現代詩の体系的な理解に貢献しています。

現代表の鈴木一民は、創業者の山田耕一から経営を引き継ぎ、書肆山田の伝統を守りつつ、新たな展開を模索しています。「印刷屋ではなく出版社」という理念の下、活版印刷へのこだわりを貫き、質の高い書籍作りを続けています。書肆山田は法人ではなく商号という形態をとっている点も、その独自の姿勢を示すものと言えるでしょう。

書肆山田は、詩という表現形式の可能性を追求し続け、多くの作家を支援することで、日本の出版文化に貢献してきました。これからも、その活動は、詩と芸術の灯を灯し続けるでしょう。

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