ハブリダクション

ハブリダクション：悪路走破性を高める駆動システム

ハブリダクション、またはリダクションハブとは、自動車のドライブトレインにおける減速方式の一種です。このシステムは、車軸とデフケースをホイールハブ中心の上方に配置することで、高い最低地上高を実現します。通常のアクスルレイアウトと比べて、車体の接地高を向上させ、悪路走破性を大幅に向上させることが大きな特徴です。

この技術は、特にポータルアクスルと呼ばれる、固定車軸にハブリダクションシステムを組み込んだ形式で知られています。日本では、ポータルアクスル全体の構造を指して「ハブリダクション」と呼ぶことが一般的です。しかし厳密には、減速ギアを内蔵したホイールハブ単体のみを指す場合もあります。

さらに、既存車両に後付けできるボルトオンポータル（ドロップボックス）と呼ばれるタイプも存在します。これは、既存の車軸のホイール側にギアハウジングを取り付けることで、動力伝達装置を変更することなくポータルアクスル化を可能にするものです。ボルボC303やウニモグ404などが、この方式を採用した代表的な例として挙げられます。

ハブリダクションのメリット

ハブリダクションの採用は、いくつかの利点をもたらします。まず、ハブ自体に減速機構を内蔵することで、デファレンシャルギアの減速比やトルク容量を小さく抑えることが可能になります。これにより、デフケースの小型化を実現し、最低地上高の向上に貢献します。また、大型のデファレンシャルギアを採用することで、より強力な駆動力を得ることもできます。

電気自動車においても、ホイールインモーターと遊星歯車による減速機を組み合わせたハブリダクションシステムが採用される例が見られます。建設機械など一部の重機にも、同様の機構が用いられているケースがあります。

ハブリダクションのデメリット

一方で、ハブリダクションにはいくつかの欠点も存在します。

構造の複雑化と重量増加: ドライブトレインの構造が複雑になり、重量が増加するため、ノーマルアクスルよりも強固なホーシング（アクスルハウジング）とサスペンションが必要となります。
過熱リスク: 低い減速比でハブリダクションを構成した場合、高速走行時に過熱しやすく、故障の原因となる可能性があります。
ブレーキ機構の制約: ハブの巨大化により、ブレーキ機構の搭載が困難になる場合があり、インボード式ディスクブレーキの採用を余儀なくされることがあります。
騒音: 減速機構自体が騒音源となる可能性があります。
路面追従性の低下: ばね下重量の増加により、路面追従性が低下する可能性があります。
高コスト: これらの欠点を克服するために、高度な技術と材料が必要となるため、システム全体として高価になります。

ハブリダクション採用車種

これらのデメリットにもかかわらず、ハブリダクションは、高い走破性が求められる特殊な車両に採用されています。特に軍用車両とその民生バージョンでの採用例が多く見られます。代表的な車種としては、以下のものが挙げられます。

フォルクスワーゲン・キューベルワーゲン
UAZ-469
メルセデス・ベンツ・ウニモグ
メルセデス・ベンツ・G63 AMG 6x6 トラック
メルセデス・マイバッハG650ランドレー
シュタイア・ダイムラー・プフ・ピンツガウアー
Steyr Puch Haflinger
Volvo C303
タトラ・T805 小型トラック
タトラ・T810 中型トラック
プラガ・V3S
Agco Spra Coupes
UTV Gear Lift
ランドローバー・ディフェンダー 130CC-R
AMゼネラル HMMWV（ハンヴィー）
AMゼネラル ハマーH1
International FTTS
高機動車
トヨタ・メガクルーザー
73式中型トラック（新型、トヨタ/日野）
73式大型トラック（改良型、いすゞ）
日野自動車・レンジャー FX/GX（低床フルタイム4WD＝インバートポータルアクスル）
* ダイハツ MUD MASTER-C（軽自動車規格で唯一のハブリダクション採用例）

さらに、低床路面電車やノンステップバスにも、床高さを低くするためのバリアフリー化を目的としてハブリダクションが用いられています。これらの車両では、ホイールハブ中心の下方にドライブシャフトを配置する、インバートポータルアクスルと呼ばれる形式が採用されています。

ハブリダクションは、高い最低地上高と強力な駆動力を両立させる魅力的な技術ですが、コストや複雑さといった課題も存在します。その特性から、特殊な用途に限定して採用される傾向にあります。

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