最後の審判 (ミケランジェロ)

ミケランジェロの傑作『最後の審判』：システィーナ礼拝堂を彩る壮大なフレスコ画

『最後の審判』（イタリア語: Giudizio Universale）は、ルネサンスを代表する芸術家ミケランジェロ・ブオナローティが、バチカン宮殿のシスティーナ礼拝堂の祭壇に描いた巨大なフレスコ画です。1541年に完成し、その圧倒的なスケールと表現力で、今日に至るまで多くの人々を魅了し続けています。

制作の背景：時代と芸術家の葛藤

ミケランジェロは『最後の審判』に先立ち、教皇ユリウス2世の命により、1508年から1512年にかけてシスティーナ礼拝堂の天井画を手がけ、『創世記』をテーマにした壮大な作品を完成させています。それから20数年後、教皇クレメンス7世から祭壇画の制作を依頼され、後継のパウルス3世の時代に、1535年から約5年の歳月をかけて『最後の審判』は完成しました。

天井画と祭壇画の制作の間には、ローマ略奪という歴史的大事件が発生しており、美術史においては、盛期ルネサンスからマニエリスムへの移行期にあたるとされています。ミケランジェロは、時代の変化と自身の芸術的探求の中で、『最後の審判』という新たな表現に挑んだのです。

ペルジーノの『聖母被昇天』：失われた祭壇画

ミケランジェロが『最後の審判』を描く前、祭壇画としてペルジーノの『聖母被昇天』が描かれていました。ミケランジェロは当初、ペルジーノの絵を残すことを提案しましたが、クレメンス7世によって却下され、祭壇の壁面の漆喰が剥がされ、『聖母被昇天』は失われました（スケッチのみが現存）。

『聖母被昇天』には、発注主であるシクストゥス4世の姿が描かれていたことがわかっています。クレメンス7世は、パッツィ家の陰謀により実父を殺害されており、シクストゥス4世が事件の黒幕であったとする説があります。祭壇画の変更は、クレメンス7世による復讐であった可能性も指摘されています。

構成：400名を超える群像表現

『最後の審判』には、400名以上の人物が描かれています。中央には、再臨したイエス・キリストが描かれ、死者に対して裁きを下しています。向かって左側には、天国へと昇天していく人々が、右側には地獄へと堕ちていく人々が描かれています。

右下の水面には、冥府の渡し守カロンが、亡者に向かって櫂を振りかざしている姿が描かれています。カロンの舟に乗せられた死者は、アケローン川を渡り、地獄の各階層へと振り分けられていきます。ミケランジェロは、この地獄の風景を描くにあたり、ダンテの『神曲』地獄篇からイメージを借りています。

群像の多くが裸体で描かれている点について、儀典長から非難を受け、「着衣をさせるべき」という勧告が出されました。この指示を受けて腰布を加筆したのが、ミケランジェロの弟子ダニエレ・ダ・ヴォルテッラです。ヴォルテッラは後に“ふんどし画家”という不名誉なあだ名をつけられることになりました。ミケランジェロはこれを恨み、地獄に自分の芸術を理解しなかった儀典長を配したというエピソードも残っています。この件に対して、儀典長がパウルス3世に抗議したところ、「煉獄はともかく、地獄では私は何の権限も無い」と冗談交じりに受け流されたと言われています。

また、キリストの右下には、自身の生皮を持つバルトロマイが描かれていますが、この生皮はミケランジェロの自画像であるとされています。さらに、画面左下方には、ミケランジェロが青年時代に説教を聴いたとされるサヴォナローラらしき人物も描かれています。

修復作業：色彩の復元

『最後の審判』を含むシスティーナ礼拝堂の壁画・天井画は、長年のすすで汚れていましたが、日本テレビの支援により、1981年から1994年にかけて修復作業が行われました。壁画・天井画は洗浄され、制作当時の鮮やかな色彩が蘇りました。ミケランジェロの死後にヴォルテッラが追加した腰布は、一部を除き除去されました。

複製の展示：現代に蘇る巨匠の作品

『最後の審判』は、以下の施設で複製が展示されています。

大塚国際美術館：実物大のレプリカ
京都府立陶板名画の庭：陶器製のほぼ原寸大のレプリカ

これらの施設では、オリジナルに忠実な複製を通して、ミケランジェロの傑作を間近に鑑賞することができます。

もう一度検索