有害

聖飢魔II『有害(YOU GUY! ROCK ON!)』：ヘヴィメタル回帰と内面探求の旅

1990年9月、聖飢魔IIは7作目のオリジナルアルバム『有害(YOU GUY! ROCK ON!)』を発表した。前作『WORST』(1989年)から約1年ぶりとなる本作は、バンドの音楽性において重要な転換点となった作品である。

バラードからの転換と制作背景

『THE OUTER MISSION』(1988年)以降、聖飢魔IIは世間の認知拡大を目指し、バラード路線への進出を試みる。エース清水による「白い奇蹟」とSGT.ルーク篁III世による「BAD AGAIN 〜美しき反逆〜」の2曲が連続でシングルとしてリリースされた。この戦略は一定の成功を収め、特に「白い奇蹟」はオリコンシングルチャートで12位を記録した。しかし、この2曲の連続リリースと、前作『WORST』のオリコンチャート1位獲得という成功体験を経て、バンド内部では次のアルバム制作にあたり、楽曲制作の難航や方向性の迷いが生じることになる。

この時期、バンドはマネージメントに松元浩一が加入。テレビへの露出が増え、『夢で逢えたら』、『全員出席!笑うんだってば』への出演やテーマソング制作といった活動を通して、聖飢魔IIはさらに世間の注目を集めることになった。「BAD AGAIN 〜美しき反逆〜」は『全員出席!笑うんだってば』のエンディングテーマとして起用されるなど、バラード路線は一定の成果を上げたものの、一方でバンド内では従来のヘヴィメタル路線への回帰を求める声が高まっていた。楽曲制作に行き詰まったバンドは、急遽デーモン小暮によるソロアルバム『好色萬声男』の制作を挟むことになり、その過程で新たなアイデアや音楽的刺激を得ることになった。さらに、小暮は新宿スペース・ゼロで一悪魔芝居『真説・照美事音傳来記』を上演。この異例の企画は、聖飢魔IIの今後の活動に大きな影響を与えることになる。

コンセプトの模索と制作過程

『有害』の制作にあたっては、メンバーとスタッフ間で綿密なコンセプト会議が行われた。バンドはそれまでの幻想的な世界観から一転、人間の心の内面、特に「SEX」というテーマを前面に出した、より攻撃的で骨太な作品を目指した。しかし、過去のバラード路線へのシフトによって、一部ファンからは「軟弱路線」との批判も寄せられていたため、従来のファンを取り戻す必要性も制作を難しくしていた。こうした状況の中で制作された本作は、メンバーの葛藤や、新たな音楽的試み、そして世間の期待との間で揺れるバンドの心情を反映した作品となった。

レコーディングには松崎雄一が初めて参加。彼のサウンド・プロデュース的な役割が、本作の音作りに大きく貢献した。しかし、過去の成功体験から慢心していた面もあったメンバーは、レコーディングにおいてもその傾向が見られた。特にライデン湯沢は、レコーディングのノウハウを習得したことで、自身で取り組むべき部分をスタッフに委ねてしまうなど、問題点も抱えていた。

音楽性と歌詞：内面の闇とメッセージ性の葛藤

『有害』は、ハードロック路線回帰を明確に意識した作品である。前作『THE OUTER MISSION』が宇宙規模の壮大な物語であったのに対し、本作は人間の心の闇や葛藤をテーマに、より内面的な表現が試みられている。しかし、音楽プロデューサー土橋安騎夫が不在だったこと、メンバーの精神状態、バラード路線への反動など、様々な要素が複雑に絡み合い、結果として「中途半端」な作品になったという評価もある。

デーモン小暮は、本作の表面的なテーマは「SEX」だが、裏テーマは別のものがあると述べている。彼は、「SEX」というテーマを通して、人間の根幹を描こうとしたと主張している。楽曲「嵐の予感」は、当時の小暮自身の心境を反映したものであり、小暮自身は本作に満足しているものの、丸沢和宏ディレクターは本作を好んでいなかった。

他のメンバーも本作について様々な意見を述べている。SGT. ルーク篁III世は『THE OUTER MISSION』と対をなす作品だとし、楽曲間のバランスや、土橋安騎夫不在の影響などを指摘している。ゼノン石川は本作の音の洪水のような複雑さを、ライデン湯沢はドラムス演奏の激しさやエンジニアの苦労を語っている。エース清水は本作が『THE OUTER MISSION』からの自然な流れであるものの、全体的にまとまりに欠けた印象を持っている。

リリース、評価、そしてその後

『有害』は初回限定盤と通常盤でリリースされ、初回限定盤には鉄アレイを模したグッズが付属した。「これを聴いてはいけない! 君の脳が変になる恍惚の第七教典」というキャッチコピーが付けられ、聖飢魔II研究家富田達矢によるライナーノーツが収録された。先行シングル「有害ロック」はテレビ朝日『ミュージックステーション』で演奏され、小暮はスタジオセットを破壊するパフォーマンスを披露した。オリコンアルバムチャートでは初回限定盤が5位を記録し、総売上枚数は10.3万枚に達した。しかし、セールス面では期待を下回ったとされ、メンバー間でも過渡期的な作品という認識があった。

音楽情報サイト『CDジャーナル』は本作を肯定的に評価しているものの、小暮自身も「中途半端」という認識を示しており、後年のインタビューでも、本作は様々な要素が混在し、うまくまとまらなかった作品であると語っている。しかし、本作は後にミュージックビデオ集『無害』やライブビデオ『超有害行脚』が制作されるなど、聖飢魔IIの活動において重要な位置を占める作品となっている。2013年にはBlu-spec CD2仕様で再リリースされ、デジタル配信も開始された。

結論

『有害』は聖飢魔IIにとって、転換期を象徴する作品である。バラード路線からの転換、バンド内外の葛藤、そして音楽性の模索。これらの要素が複雑に絡み合った結果、完成度の高い作品とは言い難い部分もあったが、聖飢魔IIの音楽性と、その後の活動に大きな影響を与えた重要な作品と言えるだろう。

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