望月牧

望月牧の歴史と意義

望月牧（もちづきのまき）は、信濃国の佐久郡に位置していた勅旨牧で、信濃十六牧の一つとして知られています。この牧場は、千曲川とその支流である鹿曲川に挟まれた御牧ヶ原台地に位置し、現代の長野県佐久市望月地区を中心に、浅科地区や東御市北御牧地区にもまたがっています。これらの地域には「野馬除け」という遺構が残されており、当時の面影を伝えています。

勅旨牧としての役割

望月牧は、『延喜式』に記載されている信濃国の16牧の中でも最大規模を誇り、毎年4月に行われる貢馬の献上が特に重要視されていました。信濃国全体で80疋の馬が献上される中、望月牧だけで20疋が占めていました。このことからも、望月牧の重要性がうかがえます。

中原師元の著作『師元年中行事』には、仁和元年（865年）8月15日に「牽信濃国勅旨御馬事」が行われ、別の日には「牽信濃国望月勅旨御馬事」という特記も存在しています。このように、望月牧は他の牧場と区別された特別な存在だったのです。

馬の貢上とその変遷

当時の牧監は、各令制国に1名ずつ配置されていましたが、信濃国の場合は、望月牧専任の牧監と他の諸牧を統括する牧監が別に配置されていました。このような管理体制は、望月牧の特異性をさらに強調しています。確実に記録として残っている文献の中では、『日本三代実録』の貞観7年（865年）12月19日の記述において、望月の貢馬日が固有名詞として言及されており、特別な意味を持つことが証明されています。

しかし、天暦7年（953年）や天延2年（974年）には、貢上される馬の数やその時期に不足や遅滞が見られるようになり、望月牧の影響力は徐々に低下しました。

社会情勢と望月牧

『吾妻鏡』に記載された文治2年（1186年）の記録には、左馬寮の荘園として言及されており、勅旨牧の衰退や形骸化が示唆されています。その後、建武元年（1334年）の『建武年中行事』では、他の諸牧からの貢馬が途絶える中、望月牧のみがその役割を果たし続けました。中原師守の『師守記』の中で、貞治6年（1367年）には、ついに最後の貢上として10疋を献上したのみの記録が残されます。

文化的遺産と影響

室町時代以降の文献には、諏訪大社の造営役や神役に関する記録の中で「望月郷」という表現が見られるようになり、これにより望月牧の影響は単なる馬の貢上を超えて、地域社会においても重要な役割を果たしていたことがわかります。また、望月を満月にかけた和歌も多く残されています。

望月牧は、信濃国における重要な歴史の一部であり、その意義や文化的背景を理解するためにも不可欠な場所です。

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