朝日 (たばこ)

朝日：日本のたばこ史に名を刻む銘柄

1904年、日本専売公社（現在の日本たばこ産業）は、「敷島」、「大和」、「山桜」と並んで、新たな紙巻きたばこ銘柄「朝日」を発売しました。その名前は、本居宣長の歌から取られたもので、時代を超えて愛される銘柄となる予兆を感じさせます。

発売当初から人気を集め、夏目漱石など著名人も愛用した「朝日」は、1910年代にはお中元用のセット商品としても販売されるほど、その存在感を高めていきました。1930年代前半には1箱15銭という手頃な価格も後押しし、高い人気を誇りました。しかし、1936年の値上げと、新製品「光」の登場というダブルパンチを受け、愛煙家の一部は「光」へと移行。地域によっては販売数は値上げ前の3分の1にまで減少するなど、厳しい状況に直面することとなりました。

第二次世界大戦中は、戦費調達のため値上げを余儀なくされます。1943年、20本入り25銭から45銭への値上げは、「紀元二千六百年」の替え歌にも取り上げられるほど、国民に広く知れ渡った出来事でした。このことからも、「朝日」が国民生活に深く根付いていたことがわかります。

さらに、1944年には資材節約のため、吸口を除いた部分を長くした「両切り朝日」が併売されました。値段は据え置きでしたが、バラ売りという販売形態がとられ、その後販売は終了しました。

戦後、両切りやフィルター付きタバコの人気が高まる中、「朝日」の人気は回復せず、1950年にはブランド別売り上げ最下位に転落。時代の流れに乗り遅れた「朝日」は、1976年12月にとうとう生産を終了しました。これは、日本専売公社による口付紙巻きたばこの生産撤退を意味するものでした。なお、生産中止時点でも約200万箱の在庫があったため、1977年に入っても販売は継続されました。

生産中止前年の1975年のデータによると、「朝日」のタール含有量は24mg、ニコチン含有量は1.3mgでした。

香川県高松市の「朝日町」という町名は、かつて高松工場で「朝日」が製造されていたことに由来しています。この工場は2005年に閉鎖され、跡地には香川県立中央病院が2014年に移転開院しました。

「朝日」は、時代とともに変化する嗜好や社会情勢の中で、その歴史に幕を閉じました。しかし、夏目漱石愛用の銘柄として、戦時下の値上げを歌に詠まれるほど国民に親しまれた銘柄として、日本のたばこ史にその名を刻んでいます。その歴史は、日本の社会経済の変化を映す鏡と言えるでしょう。

もう一度検索