朝日重章

朝日重章（あさひ しげあき）

生涯

朝日重章は、延宝2年（1674年）に尾張[[藩]]士の三男として生まれました。幼名は甚之丞、後に亀之助、文左衛門と名乗り、家督を継いでからは父の名である定右衛門を名乗りました。彼は日記『鸚鵡籠中記』の著者として知られていますが、その日記には、彼の多趣味な生活や、家庭環境、そして健康問題まで赤裸々に綴られています。

元禄4年（1691年）に日記を書き始め、元禄6年（1693年）には弓術師匠の娘と結婚しますが、自身の女癖の悪さが原因で離婚。その後、農家の娘と再婚しますが、その妻も嫉妬深く、家庭環境に生涯悩まされることになります。

元禄7年（1694年）に家督を継ぎ、御城代組、御本丸御番を務め、元禄13年（1700年）には藩の御畳奉行となります。宝永5年（1708年）には定右衛門に改名しますが、その頃から深酒が祟り、健康を害することが多くなり、享保2年（1718年）に日記が絶筆。翌年の享保3年（1718年）に45歳で亡くなりました。

朝日家について

朝日家の先祖は、甲斐武田家に仕えた足軽「古田重虎」とされています。その子、右衛門の時に武功によって「朝日」姓を賜ったのが始まりとされています。武田家滅亡後は平岩親吉に仕え、加増を重ねて100石取りとなりました。重章は三男でしたが、兄たちが早世したため、家督を継ぎました。しかし、重章には男子がおらず、親族から養子を迎えますが、その養子も病弱で出仕できずに屋敷や知行を返上し、朝日家は断絶しました。

人物とエピソード

酒

重章は、酒をこよなく愛し、仲間と連日飲み歩いていました。日記にはその様子が事細かに記録されており、深酒による失敗談も数多く残されています。本人は反省するものの、次の日にはまた飲みに出かけるという日々を繰り返していました。その結果、健康を害し、寿命を縮めることになったと考えられます。

日記には、以下のような記述が見られます。

「昨夜、酒過ぎ、且つ食傷（食あたり）の気味なり。心神、例ならず、今朝二度吐逆す。従来慎むべし」
「政右（相原政之右衛門）にて昼、酒給（食）ぶ。吐逆し、はなはだ困る」
「暮れ前に帰る。はなはだ沈酔し吐逆云うべからず」
「はなはだ酒に酔い吐することはなはだしく、殆ど我を忘れ、呼吸絶して大息す。謹じて後を戒めよ、愚かなるかな愚なるかな、今夜より禁酒」

反省してもすぐに飲みに出かけてしまう様子が、日記から読み取れます。

芝居

重章は酒だけでなく、能楽や人形浄瑠璃もこよなく愛していました。暇さえあれば悪友たちと芝居見物に出かけ、公用で上方へ出張した際にも、同じ演目を連続して見に行くほどでした。その様子は、まるで中毒のようであったと想像できます。

日記には、以下のような記述が見られます。

「若宮にて操り。日親上人徳行記。太夫、笹尾平太夫、また側に踊りあり。太夫、隼桐之助八歳、軽業、物まね、大阪踊。」
「若宮にて踊りおよび操りを見る。浄瑠璃の面白さ、からくりの奇妙さ、千花金字落五色、彩雲流廻背楽心実盛。」
「若宮へ行き踊および操りを見る。能の加茂、但し中入りより帰る。」
「若宮へ行く。踊りおよび操りを見る。能は田村なり。」

内容にもこだわりがあったようで、つまらないと感じた場合は日記に批判的な感想を書き残しています。

投網・釣り

重章は、芝居がない時には、釣りや投網にも興じていました。生類憐みの令が敷かれていた時代にもかかわらず、藩の禁令を無視して、友人たちと「殺生」と称して釣りや投網に出かけていました。家督を継いでからは、釣りよりも投網をする機会が多くなり、新しい網を作るために大金を支払うこともありました。

日記には、以下のような記述が見られます。

「味鏡へ鮠（ウグイ）釣りへ行く。然れども西風吹いて、棹投じるに及ばず。空しく帰る。志賀にて興津安右（興津安右衛門）に逢ふ。御用水にて酒を給ぶ。鮠十二、三釣り帰る」
「山崎へ殺生に行く。橋より上十町余を網して打つ。塩（潮）先に鯐（すばしり、ボラの子）を打たんと欲し、暮れ前にまた橋辺に来たる処に塩満ち、深くして鯐一疋も取れず。」
「金谷坊池へ殺生に行く。」
「大曾根より金谷坊へ網打ちに行く。暮れて帰る。」
「瀬左（石川瀬左衛門）、平太（姓名不明）と地蔵池へ網打ちに行く。道すがら酒飲み、楽。」

奉行になってからも、「殺生」に夢中で、邸宅から遠く離れた地蔵池へ何度も足を運んでいたようです。

終焉

重章は、酒と多趣味な生活を送る一方で、家庭環境や健康問題に悩まされ、享保2年（1718年）12月27日に「時どき呑酸、出づ。腹悪張りにはり、気宇すぐれず。腹筋引きつり、物を言うこと不自由。したたかに吐く」と日記に記した後、2日後に日記を絶筆し、翌年の享保3年9月14日に45歳で亡くなりました。彼の波乱に満ちた生涯は、日記『鸚鵡籠中記』を通して今に伝えられています。

関連項目

天野源蔵：重章が終始、兄事した人物。『鸚鵡籠中記』の最終章に「終焉」と記した。
元禄なう：2016年にNHKで放送されたドキュメンタリー番組。朝日重章が2016年の日本にタイムスリップしてきた設定で、元禄武士の視点で現代に生きる人々の姿を描く。

外部リンク

朝日重章 とは - コトバンク

もう一度検索