朝鮮人街道

朝鮮人街道：歴史と文化が交差する道

朝鮮人街道は、現在の滋賀県に位置する、かつての近江国に存在した脇街道の通称です。この道は、彦根道、京道、八幡道といった複数の道が合わさってできており、中山道（上街道）に対して下街道・浜街道、あるいは朝鮮人道、唐人街道などとも呼ばれていました。

街道の成立と特徴

朝鮮人街道は、東海道や中山道のように計画的に整備された道とは異なり、もともとあった農道などを繋ぎ合わせてできた道です。そのため、総距離は約41.2kmと、中山道の同区間（約38.7km）よりもやや長くなっています。街道は、野洲宿（現在の滋賀県野洲市）で中山道から分岐し、琵琶湖沿いを経て八幡、安土、彦根を通り、彦根市鳥居本で再び中山道に合流します。

織田信長と豊臣秀次による奨励

安土城が築城される以前、中山道は安土城下を通りませんでした。しかし、織田信長が天正4年（1576年）に安土城を築城した際、岐阜城から安土城を経由して京都へ向かう道としてこの街道を整備しました。信長は、安土城築城後の天正5年（1577年）には、城下に対して「安土発展のため、中山道ではなくこの街道を通行すること」を原則とする定めを出しました。安土城落城後、同地を支配した豊臣秀次も、八幡建設後に同様の定めを町衆に公布し、この街道の利用を奨励しました。

将軍上洛の道として

織田信長は、安土城築城以前から上洛の際にこの道を利用しており、天下布武において重要な役割を担っていました。徳川家康も関ヶ原の戦いの後、この道を通って上洛凱旋し、秀忠も同様にこの道を利用しました。そのため、この道は縁起が良いとされ、3代将軍家光は上洛の際にこの道を選び、その権威を高めるために参勤交代の大名たちに通行を禁じました。以降、将軍上洛の際にはこの道が用いられ、沿道には永原（永原茶御殿）と神崎郡伊庭に将軍専用の休憩所が設けられました。

朝鮮通信使の通行路として

将軍以外で唯一、李氏朝鮮からの使節である朝鮮通信使の通行が認められていたため、江戸時代前期からこの道は「朝鮮人街道」と呼ばれるようになりました。朝鮮通信使は、国書を携えて江戸へ向かうために来日し、慶長12年（1607年）から文化8年（1825年）にかけて計12回通行しました。通信使一行は平均400〜500人にも及び、日本の対馬藩主宗氏の家来が1000〜2000人規模で同行したため、総勢1550〜2500人という大行列となりました。異国の風俗や衣装は珍しく、沿道は見物客で溢れ、通信使側も踊りや曲芸を披露して日本の民衆との交流を図りました。

周辺の文化財

朝鮮人街道の周辺には、数多くの文化財が点在しています。野洲市の御上神社や大笹原神社、近江八幡市の長命寺や八幡山城跡、安土町の安土城跡など、歴史的な価値のある建造物や史跡が数多く存在し、街道を巡る旅をより豊かなものにしてくれます。

現代における朝鮮人街道

現代では、滋賀県道2号大津能登川長浜線が朝鮮人街道とほぼ並行しており、一部区間は重複しています。しかし、新道の開通や鉄道建設などにより、当時の道を全線踏破することは困難になっています。近年、沿道の自治体は古道としての魅力を再認識し、案内板を設置するなど、街道を辿れるように整備を進めています。

朝鮮人街道は、単なる交通路としてだけでなく、政治、文化、外交の舞台として重要な役割を果たしました。この道を歩むことで、歴史の息吹を感じ、様々な文化が交錯した時代の記憶を辿ることができるでしょう。

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