木地師

木地師（きじし）とは

木地師とは、轆轤（ろくろ）と呼ばれる道具を用いて、椀や盆などの木工品（挽物）を加工・製造する職人のことです。轆轤師（ろくろし）とも呼ばれます。

木地師の起源

木地師の起源には、9世紀に小野宮惟喬親王（おのみやこれたか しんのう）が近江国蛭谷（おうみ の くに ひるたに、現在の滋賀県東近江市）で考案したという伝説があります。親王が綱引轆轤（つなひきろくろ）を使い、周辺の杣人（そまびと）に木工技術を伝授したことが始まりとされています。しかし、異説もあり、親王の子とされる兼覧王（かねみおう）ゆかりの所領であったため、後に親王に由緒を遡らせた創作であるという説も存在します。

蛭谷や君ヶ畑（きみがはた）近辺の社寺に残っていた『氏子狩帳』（うじこがりちょう）などの資料から、木地師の研究が進められました。

木地師の活動

木地師は、惟喬親王の家来や太政大臣小椋秀実（おぐらひでみ）の子孫と称し、「朱雀天皇の綸旨（しゅじゃくてんのうのりんじ）」の写しを所持していました。この綸旨は、山の7合目より上の木材を自由に伐採できる権利を保証するとされ、木地師は山中を移動しながら生活していました。

ただし、この「朱雀天皇の綸旨」は、江戸時代の筒井神社の宮司、大岩助左衛門重綱（おおいわすけざえもんしげつな）による偽作と考えられています。しかし、このような偽文書を持つ職業集団は珍しくなく、綸旨の写しは特権を保証するものではないものの、前例に従って扱われることで実効性を持ち、木地師が定住する際にも有利に働きました。

木地師は、木地物（きじもの）の素材が豊富に取れる場所を転々としながら木地挽き（きじびき）をし、里の人や漆掻き（うるしかき）、塗師（ぬし）と交易をして生計を立てていました。中には移動生活をやめて集落を作り、焼畑耕作と木地挽きで生計を立てる人々もいました。そうした集落は、移動する木地師たちの拠点ともなりました。

江戸時代以降の木地師

江戸時代に入ると、惟喬親王の霊社を祀った神祇官（じんぎかん）の白川家が擁する君ヶ畑村（現在の東近江市君ヶ畑町）の大皇太神（おおみおおおおかみ）（鏡寺）と、同じく神祇官の吉田家が擁する蛭谷村の筒井八幡（つついはちまん）（帰雲庵）（現在の東近江市蛭谷町）が、それぞれ自分たちを木地師の氏神と喧伝し、氏子に登録していきました（氏子狩り）。

幕末には、木地師は東北から宮崎までの範囲に7000戸ほどいたと言われています。明治中期までは、美濃（みの、現在の岐阜県南部）を中心に全国各地で木地師たちが良質な材木を求めて20〜30年単位で山中を移住していました。

木地師の伝承

石川県加賀市山中温泉真砂（まなご）地区は、惟喬親王を奉じる平家の落人の村落と伝えられています。時代を経て、何通かの御綸旨（ごりんじ）で森林の伐採を許された木地師たちの小村落であり、山中漆器の源とされています。朝倉氏の庇護もありましたが、天正元年の「一乗谷城の戦い」以降は庇護がなくなり、一部の木地師たちは新天地を求めて加賀から飛騨（ひだ）や東北地方に散っていったとされています。

会津（あいづ、現在の福島県西部）には元々少数ながら木地師がいましたが、蒲生氏郷（がもううじさと）や保科氏（ほしなうじ）が転封（てんぽう）になった時に近江や信濃（しなの、現在の長野県）から木地師を連れて行きました。これらの人々は、従来の木地師から「渡り木地（わたりきじ）」と呼ばれました。

木地師が描かれた作品

小説『脊梁山脈』乙川優三郎、新潮社、2013年
アニメーション映画『かぐや姫の物語』 高畑勲監督、スタジオジブリ、2013年

参考文献

宮本常一『山に生きる人びと』河出書房新社、2011年。ISBN 9784309411156。

関連項目

惟喬親王
大皇器地祖神社（東近江市君ヶ畑）
筒井神社帰雲庵（東近江市蛭谷）
漆器
永源寺町
箕作（みつくり）
こけし

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