木村光久

木村光久：漫画から剪紙へ、変遷を遂げた芸術家の生涯

木村光久（きむら みつひさ、1930年 - 1996年）は、昭和期の日本において、漫画家、劇画家、そして剪紙作家として多様な才能を発揮した人物です。晩年は木村祥刀（きむら しょうとう）の名で、独自の剪紙芸術を追求しました。本名、木村祥一（きむら しょういち）。

多彩なペンネームと再評価

木村光久は、作風に応じて複数のペンネームを使い分けました。少女漫画では木村光久、劇画では木村仁（きむら じん）、その他京さゆり（きょう さゆり）など、多様な名義で作品を発表しています。近年、劇画家・木村仁としての作品群が再評価され、再び注目を集めています。

生い立ちと芸術の道へ

1930年、京都市東山区五条坂に生まれた木村光久は、芸術一家に育ちました。祖父は陶芸家の6代目木村清山、父は7代目木村清山、母は華道家・茶道家という環境です。京都市立美術工芸学校から京都市立美術専門学校へと進み、幼少期から陶芸の才能を発揮しましたが、陶芸家の道ではなく、挿絵画家を目指して上京。岩田専太郎、長崎抜天に師事し、初期には小説の挿絵などを手掛けました。

漫画家としての活動

1950年代から木村光久として少女漫画や少年漫画を発表し始めます。同時期に京都から上京した漫画家の吉田竜夫、辻なおきらと親交を深めました。1959年には集英社に入社した佐治輝久が初めて担当した作家が木村であり、「少女ブック」で『まつばちゃん』を発表しています。1960年には挿絵画家・江川みさおの実妹と結婚。1963年には「週刊少年マガジン」で『風雲からす』を発表。この作品は吉田の「竜の子プロ」が構成にクレジットされています。また、「ボーイズライフ」に発表した『マット・ヘルム・シリーズ』では、木村仁名義を使用しました。

剪紙作家への転身

1973年頃から劇画を発表する傍ら、中国の民間芸術である剪紙に触れ、その魅力に惹かれて技法を学び始めました。1982年には木村祥刀として国鉄京都駅のギャラリーで剪紙「能」画個展を開催し、同年には「京都府主催工芸産業技術展」で『文楽』が入選を果たしました。1989年には京都国際ホテルで個展を開催するなど、剪紙作家としての地位を確立しました。

新聞連載と晩年の活動

1994年からは「京都新聞」で『昭和ひとけた京育ち』を連載。昭和初期の京都を舞台にした作品は、多くの読者の共感を呼びました。1995年には関西電力ミュージアムで作品展を開催し、好評を博しました。しかし、1996年9月10日、『京の子供の遊び唄』シリーズ制作中に逝去。66歳でした。

没後の評価

一周忌には「姉小路行灯会」で剪紙作品が行灯に使用され、没後7年には『朗読 鬼平犯科帳』で剪紙作品が使用されました。また、未発表作であった『京の子供の遊び唄』シリーズを含む原画展が開催。木村光志名義で発表した作品が復刻されるなど、没後もその作品は多くの人々に愛され続けています。

2010年には男前豆腐店のパッケージに『昭和ひとけた京育ち』シリーズの絵柄が採用され、2011年には高台寺・圓徳院で「木村祥刀 切り絵の世界『昭和ひとけた京育ち』」展が開催されました。また、木村が撮影した8mmフィルム作品が発掘・上映され、高い評価を得ています。

木村光久は、漫画、劇画、剪紙と、多様なジャンルで才能を発揮した、昭和期のユニークな芸術家でした。その作品は、時代を超えて、今もなお人々の心を捉え続けています。

もう一度検索