木梨鷹一

木梨鷹一：不屈の潜水艦長、その生涯

木梨鷹一（きなしたかかず）は、1902年（明治35年）3月7日に生まれ、1944年（昭和19年）7月26日に戦没した、大日本帝国海軍の軍人です。最終階級は海軍少将。海軍兵学校51期を卒業し、潜水艦長として数々の任務を遂行、特に伊19潜水艦長時代にアメリカ海軍の正規空母ワスプを撃沈したことで知られています。

海軍士官への道

大分県出身の木梨は、臼杵中学校を経て海軍兵学校に入校しました。同期には、樋端久利雄、大井篤など、後に名を馳せる人物が多数いました。しかし、木梨の兵学校での成績は、入校時150番であったにもかかわらず、卒業時には255名中255番と最下位でした。この結果は、その後の彼のキャリアに大きな影響を与えることになります。当時の帝国海軍では、兵学校の卒業成績が、その後の進級や配置に大きく影響する「ハンモックナンバー」という制度が存在し、木梨は「両舷直」と呼ばれる、艦艇を転々とする立場となりました。

1924年（大正13年）12月、海軍少尉に任官した木梨は、1929年（昭和14年）に海軍大尉に進級すると同時に伊61潜水艦の航海長に任命されて以来、潜水学校での教育期間を除き、陸上勤務を一切経験することなく、艦艇勤務に専念しました。潜水艦の士官となる者は、大尉の時に水雷学校高等科を卒業し、「水雷屋」となるのが一般的でしたが、木梨は航海学生を卒業した「航海屋」であり、異色の経歴の持ち主でした。

潜水艦長としての活躍

木梨は砲艦「安宅」、駆逐艦「吹雪」、敷設艦「沖島」の航海長を歴任した後、5隻の潜水艦で航海長を務めました。1937年（昭和12年）に海軍少佐に進級し、1938年（昭和13年）には呂59潜水艦長に任命され、初めて潜水艦長となりました。その後、海軍潜水学校甲種学生を首席で卒業し、恩賜の銀時計を授与され、伊3潜水艦長、呂34潜水艦長を歴任しました。

1941年（昭和16年）7月、伊62潜水艦長（後の伊162潜水艦）に任命され、太平洋戦争開戦を迎えます。そして、1942年（昭和17年）7月、木梨は伊19潜水艦長に任命され、その名を歴史に刻むことになります。

空母ワスプ撃沈

1942年9月15日、木梨が指揮する伊19潜水艦は、ソロモン諸島近海でアメリカ海軍の空母機動部隊を発見しました。当時、アメリカ海軍は空母エンタープライズが戦線を離脱し、空母サラトガも損傷していたため、稼働可能な空母はワスプ、ホーネットの2隻のみとなっていました。木梨は、敵艦隊を追尾し、13時45分に、ワスプに対し理想的な位置から魚雷6本を発射しました。

3本の魚雷がワスプに命中し、そのうちの1本は格納庫で火災を引き起こしました。火災は瞬く間に拡大し、ワスプは手の施しようがない状態に陥りました。乗組員の退艦後、ワスプは駆逐艦による雷撃で処分されました。さらに、ワスプを攻撃した際に発射された魚雷のうち3本は、ワスプから離れた位置にいた戦艦ノースカロライナと駆逐艦オブライエンにも命中しました。ノースカロライナは修理のため戦線を離脱、オブライエンは沈没するという大戦果を上げました。

木梨は、ワスプ撃沈の戦果を報告しましたが、実際には沈没を確認することはできませんでした。しかし、付近にいた伊15潜水艦が、ワスプが沈没するのを目撃していました。

遣独潜水艦の指揮と最期

1942年（昭和17年）11月に海軍中佐に進級した木梨は、1943年（昭和18年）10月に伊29潜水艦長に転任しました。伊29潜水艦は、ドイツへの「遣独潜水艦」として派遣されることが決定しており、海軍省人事局の推薦により、木梨がその指揮を執ることとなりました。木梨は、卓越した技量と過去の功績から、この重要な任務に抜擢されたのです。

伊29潜水艦は、1943年11月に呉を出港し、シンガポールで物資を積み込み、12月16日にドイツへ向けて出港しました。ドイツまでの航海中に、ドイツの補給船から燃料の補給を受け、また、ドイツから帰還する伊8潜水艦から最新の電波探知機を受け取りました。1944年（昭和19年）3月にドイツに到着し、その後、4月16日に日本に向けて出発しました。

しかし、1944年7月25日、伊29潜水艦はバシー海峡でアメリカ海軍の潜水艦の待ち伏せに遭い、ソーフィッシュの雷撃によって撃沈されました。木梨を含む乗組員は、下士官1名を除いて戦死し、木梨は戦死認定と同時に海軍少将に二階級特進しました。満42歳でした。

結び

木梨鷹一は、海軍兵学校を最下位で卒業しながらも、不屈の精神と卓越した操艦技術で数々の戦果を挙げ、その名を歴史に刻みました。特に空母ワスプの撃沈は、太平洋戦争における大きな戦果の一つとして、今も語り継がれています。彼の生涯は、困難に立ち向かう勇気と、自身の能力を最大限に発揮することの大切さを教えてくれます。

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