本仏

本仏（ほんぶつ）とは

仏教において、無数の仏（如来）の中で、根本となる仏（如来）を指します。本仏思想は、仏教の歴史の中で重要な位置を占めており、様々な解釈や展開を見せてきました。

本仏思想の歴史

仏教の初期においては、釈迦仏が仏教を成した背景には、過去の仏陀たちの功徳の累積があるという思想がありました。また、提婆達多派のように、釈迦以前の仏を信仰対象とする集団も存在しました。

大乗仏教が広まると、釈迦仏だけでなく多くの仏が尊崇されるようになりました。これらの仏は迹仏（しゃくぶつ）と呼ばれ、本仏が仮の姿を現したものと解釈されました。釈迦仏が仏となったのは、過去世における長い修行の結果であり、その修行の中で無数の仏に師事したと考えられ、その中で第一原因となる本仏が想定されるようになりました。

12世紀頃には、天台宗において本仏思想が見られましたが、現在の天台宗では、本仏思想は主要な教義ではありません。

久遠常住（くおんじょうじゅう）

涅槃経においては、法華経の久遠実成の思想を受け継ぎ、如来は入滅後も永遠に存在すると説いています。これは如来常住不変易、または三宝一体常住不変易、久遠常住と呼ばれています。

また、涅槃経では、末法思想を単なる方便説として否定し、如来は常に存在すると説いています。これは、末法の世において如来がいないという誤った教えを広める悪比丘の出現を警戒したためです。

日蓮における本仏論

日蓮の思想には、中古天台思想の影響が見られます。日蓮の本仏論には、主に以下の二つの立場があります。

釈迦本仏論

法華経の如来寿量品に登場する無量長寿の釈迦牟尼仏を本仏とする考え方です。この釈迦牟尼仏は久遠仏、または久遠実成本仏とも呼ばれ、他の仏はすべてこの本仏の迹仏とされます。大乗仏教に登場する無数の仏も、本仏釈迦牟尼仏のコピー、つまり迹仏に過ぎないと考えます。

この本仏としての釈迦牟尼仏と、歴史上の釈迦（ゴータマ・シッダルタ）を同一視するかどうかは論者によって異なりますが、釈迦の精神的根源と捉えることが多いようです。この立場では、日蓮は仏弟子であり、本仏ではありません。

日蓮本仏論

日蓮を本仏とする考え方です。これは、勝劣派系の富士門流の教義です。法華経以外の経典では、釈尊は出家後6年の修行で悟りを開いたとされますが、法華経では釈尊は五百塵点劫という久遠の昔に成仏したと説かれています。天台の法華玄義には、過去、現在、未来において仏の根源は一つであると説かれています。

日蓮正宗では、日蓮は法華経に予証された末法の世を救う上行菩薩であり、内証は久遠元初の自受用身、すなわち末法の御本仏であるとします。そのため、日蓮を「日蓮大聖人」と尊称します。日蓮の著作には、自身が一切衆生の主師親であると述べている箇所があり、この思想の根拠とされています。

日蓮は、凡夫が本仏であり、仏は迹仏であると説き、釈迦仏が衆生に三徳を備えているのではなく、衆生が仏に三徳を被せ奉ると述べています。また、日蓮正宗以外の富士門流では、釈迦本仏論を基底とした日蓮本仏論が展開されています。

天皇本仏論

本仏思想の変種として、天皇を本仏とする考え方もありますが、これは仏教の主流な考え方ではありません。

まとめ

本仏思想は、仏教の多様な解釈と展開を示す興味深いテーマです。釈迦本仏論、日蓮本仏論など、それぞれの立場によって本仏の捉え方が異なります。この思想は、仏教の歴史と教義を深く理解するための重要な鍵となります。

脚注

注釈

出典

参考文献

黒木報源「宮崎県の富士門流について」（pdf）『現代宗教研究』第42号、日蓮宗現代宗教研究所、2008年3月31日、481-492頁
宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 編『日蓮正宗入門』阿部日顕(監修)（第2版）、大石寺、2002年10月12日。
樋田昌志 (n.d.a). “日蓮正宗　法華講・法論映像・対　創価学会・顕正会等　邪宗　邪義”
樋田昌志 (n.d.b). “日蓮大聖人が末法の御本仏であることの文証及び十界曼荼羅本尊しか本尊たり得ない論証”
日蓮 著、平成新編日蓮大聖人御書編纂会 編『開目抄』（PDF）阿部日顕(監修)、大日蓮出版、1994b（原著1272年2月）
日蓮 著、平成新編日蓮大聖人御書編纂会 編『諸法実相抄』（PDF）阿部日顕(監修)、大日蓮出版、1994c（原著1273年5月17日）、665頁
日蓮 著、平成新編日蓮大聖人御書編纂会 編『蓮盛抄』（PDF）阿部日顕(監修)、大日蓮出版、1994a（原著1255年）、28頁
日蓮正宗宗務院『日蓮正宗要義』（改訂）日蓮正宗宗務院、1999年12月19日
日蓮正宗宗務院 編『法華講員の心得』（改訂版第5刷）大日蓮出版、2008年2月16日（原著1988年10月1日）
日興 著、平成新編日蓮大聖人御書編纂会 編『御義口伝』（PDF）阿部日顕(監修)、大日蓮出版、1994年（原著1278年1月1日）
水島「「凡夫は体の三身にして本仏ぞかし」の文について」『大日蓮』第457号、大日蓮出版、1984年3月

関連項目

日蓮宗勝劣派
門流
法華経
大般涅槃経
贖命重宝

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