富士門流

富士門流とは

富士門流（ふじもんりゅう）は、鎌倉時代の僧侶である日蓮の高弟、日興の法脈を受け継ぐ門流です。日興門流とも呼ばれます。日蓮の教えを基盤としつつ、独自の解釈や歴史的展開を経て、今日に至っています。

教義の特徴

富士門流は、法華経に対する解釈において、本迹勝劣（ほんじゃくしょうれつ）派の立場を取ります。これは、法華経の前半部分（迹門）と後半部分（本門）を比較し、本門の方が優れていると考える立場です。本仏論においては、興門八本山の寺院間で解釈が分かれており、西山本門寺、北山本門寺（重須本門寺）、小泉久遠寺、柳瀬実成寺、京都要法寺の五寺は釈迦本仏論を主張し、富士大石寺、下条妙蓮寺、保田妙本寺の三寺は日蓮本仏論を主張しています。

師弟関係と寺院

富士門流は、単一の宗派として組織されておらず、日興を祖とする師弟関係と寺院のつながりによって構成されています。

日興
日目
日道 - 富士大石寺 --- 日蓮正宗
日郷
- 小泉久遠寺 --- 日蓮宗
- 保田妙本寺 --- 単立
日叡 - 日向定善寺 - 日蓮正宗
日尊 - 京都要法寺 --- 日蓮本宗、日蓮宗
日華
日相 - 下条妙蓮寺 --- 日蓮正宗
日仙 - 讃岐本門寺 --- 日蓮正宗
日代 - 西山本門寺 - 法華宗興門流
日妙 - 北山本門寺 - 日蓮宗
日澄 - 北山本門寺談所 - 日蓮宗
日満 - 阿仏妙宣寺 - 日蓮宗

これらの寺院の中でも、特に富士大石寺（日蓮正宗）、下条妙蓮寺（日蓮正宗）、北山本門寺（日蓮宗）、小泉久遠寺（日蓮宗）、西山本門寺（法華宗興門派）は富士五山と呼ばれ、門流展開の拠点となっています。さらに、伊豆実成寺（日蓮宗）、保田妙本寺（単立）、京都要法寺（日蓮本宗）を加えて興門八本山と称します。

歴史

鎌倉時代から建武の新政

1289年、日興は地頭である南条時光の招きで下之坊へ移り、翌年には南条時光の寄進により富士大石寺を建立しました。当初は富士方、富士門跡と呼ばれていました。1298年、日興は富士大石寺を日目に託し、石川能忠の招きで重須へ移住し、北山本門寺を開山しました。ここで35年間にわたり教線を拡大し、多くの弟子を育成しました。日興の弟子には、本六人（日華、日目、日秀、日禅、日仙、日乗）と新六人（日代、日澄、日道、日妙、日毫、日助）がおり、その他に日尊がいます。日目は富士大石寺を継承し、日華は下条妙蓮寺を創立、日尊は上行院（後の京都要法寺）を開山しました。日目の弟子である日郷は、小泉久遠寺と保田妙本寺を開基しました。

日蓮正宗では、1332年に日興が『日興跡条々事』を記し、この書を根拠に日興から日目への唯授一人の血脈相承があったと主張しますが、日蓮宗はこれを認めていません。日興は1333年に重須で亡くなりました。翌年、富士大石寺で方便品読不読論争が起こり、日代と日満が重須を去り、それぞれ西山本門寺と妙照寺を開基しました。

室町・安土桃山時代

関東系の教学が日隆門流の影響を受けたのに対し、関西系はこれを排斥しました。富士大石寺第9世の日有は、堂宇の再建や学僧の養成、布教活動に尽力し、中興の祖と仰がれています。日有は日蓮本仏論を明確に打ち出したとされますが、現代の日蓮正宗では、日蓮本仏論は宗祖日蓮が明らかにしていたと主張しています。

また、この時期には、富士大石寺が北山本門寺や保田妙本寺と、寺院の伝統や戒壇を巡って争いました。また、日辰は上行寺と住本寺を合併させるなど、関東の寺院の調停に尽力しましたが、その主張は富士大石寺に受け入れられませんでした。日辰と日我は富士門流の教学を確立しようとしたため、後世「東我西辰」と称されました。

江戸時代

日辰の弟子たちにより、日尊門流（京都要法寺）が富士門流教学の主流を占めました。日辰没後、京都要法寺と富士大石寺の間で「一味通用」が結ばれ、京都要法寺の教学が富士大石寺に流入しました。しかし、その後、富士大石寺に日寛が現れ、一致派、日隆門流、日尊門流の教学に対抗し、富士大石寺の教学を確立しました。日寛は『六巻抄』によって富士大石寺の教学を組織大成し、中興の祖と仰がれるようになりました。

明治時代

明治政府の一宗一管長制のもと、1872年に富士門流は他の日蓮宗系門流と合同し、日蓮宗を形成しました。しかし、1874年には各派別に管長を置くことが認められ、日蓮宗は一致派と勝劣派に分裂しました。富士門流は勝劣派に属しましたが、1876年には興門派八本山とその末寺からなる日蓮宗興門派として分離し、1899年には本門宗と改称しました。1900年には富士大石寺が本門宗から独立し、「日蓮宗富士派」となり、1912年に日蓮正宗と改称しました。

太平洋戦争とその後

1940年の宗教団体法により、1941年には日蓮正宗を除く富士門流寺院が本門宗、顕本法華宗、日蓮宗と合併して日蓮宗となりました。日蓮正宗は宗派合同を拒否し、独立を保ちました。

太平洋戦争後、富士大石寺は日蓮正宗に帰属し、下条妙蓮寺も合流しました。北山本門寺は日蓮宗に帰属し、小泉久遠寺、伊豆実成寺も同様です。西山本門寺は一時日蓮正宗に合流しましたが後に単立となり、保田妙本寺は日蓮正宗に合流後離脱しました。京都要法寺は日蓮本宗を設立して日蓮宗から独立しました。

現在の寺院

現在の富士門流の寺院は、以下の宗派に分かれています。

日蓮正宗：富士大石寺、下条妙蓮寺など
興統法縁会（日蓮宗内の富士門流寺院）：北山本門寺、小泉久遠寺、伊豆実成寺など
法華宗興門流：西山本門寺
日蓮本宗：京都要法寺

参考文献

有賀要延『日蓮各派の教学:天台法華学からの超絶と流水』山喜房佛書林、1975年
井上博文「近世初頭京都日興門流教学の展開：広蔵院日辰の造仏論・読誦論をめぐって」『日蓮とその教団：研究年報』第4巻、平楽寺書店、1981年
榎木境道『富士門流の歴史 重須篇』妙教編集室、2007年
影山堯雄『日蓮教団史概説』平楽寺書店、1979年
金岡秀友 編『仏教宗派辞典』東京堂出版、1979年
木村勝行「日蓮門下合同問題について 法華宗の場合」『現代宗教研究』第29号、日蓮宗現代宗教研究所、1995年
近江幸正「三派合同」『現代宗教研究』第29号、日蓮宗現代宗教研究所、1995年
斎藤昭俊・成瀬良徳 編『日本仏教宗派辞典』新人物往来社、1988年
佐藤博信「安房妙本寺における由緒と伝統の創成 : 特に「妙本寺文書」の一通をめぐって」『千葉大学人文研究』第42号、千葉大学文学部、2013年
執行海秀『日蓮宗教学史』平楽寺書店、1952年
宗旨建立750年慶祝記念出版委員会 編『日蓮正宗入門』大石寺、2002年
日蓮宗現代宗教研究所 編『近代日蓮宗年表』日蓮宗宗務院、1981年
日蓮宗現代宗教研究所 編『創価学会批判』日蓮宗宗務院、2006年
日蓮宗事典刊行委員会 編『日蓮宗事典』日蓮宗宗務院、1981年
日蓮正宗宗務院『日蓮正宗要義』日蓮正宗宗務院、1999年
日興他 著、立正大学日蓮教学研究所 編『興尊全集 ; 興門集』山喜房仏書林、1983年
堀慈琳『日蓮正宗綱要』雪山書房、1922年
本間裕史「富士日興門流の動向と日蓮宗」『現代宗教研究』第29号、日蓮宗現代宗教研究所、1995年
宮崎英修 編『日蓮辞典』東京堂出版、1978年
* 宮崎英修「富士戒壇論について」『仏教の歴史と文化：仏教史学会30周年記念論集』、同朋舎出版、1980年

この文章は、富士門流の概要、教義、歴史、関連寺院について包括的に解説したものです。

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