本因坊秀甫

本因坊秀甫

本因坊秀甫（ほんいんぼう しゅうほ、1838年 - 1886年10月14日）は、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した囲碁棋士です。本名は村瀬秀甫といい、江戸で生まれました。本因坊丈策、秀和に師事し、八段準名人、十八世本因坊という地位にまで上り詰めました。法名は日寿。

生涯

坊門時代

秀甫は、江戸の上野車坂下の、本因坊道場の隣の貧しい大工の家に生まれました。幼名は彌吉。8歳で本因坊丈策に入門しましたが、家庭の事情から謝礼金を払えないこともあったそうです。内弟子となってからは、家事全般をこなし、朝早くから夜遅くまで碁の勉強に励みました。11歳で初段、14歳で内弟子となっています。

17歳で四段に昇段し、本因坊塾頭であった岸本左一郎の帰郷に伴い、塾頭を勤めました。その後、秀和の旅行に随伴し、五段格を与えられました。1860年には村瀬秀甫と改名しています。1861年に六段に昇段し、御城碁に備えましたが、翌年から御城碁が中止となり、出仕の機会は訪れませんでした。兄弟子である秀策との十番碁では、6勝3敗1ジゴという成績を残し、秀策と共に坊門の竜虎、碁界の圭玉と称されました。秀策の死後、後継者と目されていましたが、丈和未亡人の抗議により、秀和の長男である秀悦が跡目を継ぐこととなりました。この頃、井上松本因碩との争碁で3連勝し七段に昇段しましたが、御城碁は幕末の動乱により中止となってしまいました。跡目争いに敗れた秀甫は、越後方面に遊歴に出ることが多くなります。しかし、秀和との手合は先相先に進めるなど、実力は健在でした。

1871年に帰京し、秀和との間で先相先で8局対局し、5勝3敗という成績を収めました。その後、林秀栄とともに各地を遊歴し、秀和が亡くなると、秀悦が15世本因坊を継ぎました。

方円社時代

1879年、中川亀三郎らが方円社を発足させると、秀甫は社長に就任しました。方円社では機関誌「囲棋新報」を発行し、秀甫の棋譜評が掲載されました。段位制から級位制に移行したこの時期、秀甫は他の棋士を先以下で打ち込んでおり、1881年には方円社全員の推薦により二級（八段）に進みました。水谷縫治が秀甫と先相先にまで進みますが、1884年に夭逝しています。

また、東京帝国大学教授のオスカー・コルセルトに囲碁を教え、西洋に囲碁を広めるきっかけを作りました。1882年には著書『方円新法』を刊行。1884年から1885年頃に名人に推されましたが、これを拒絶しています。1884年から本因坊秀栄と十番碁を開始しますが、1886年に秀栄は秀甫の八段を正式に認め、本因坊を譲り、秀甫が18世本因坊秀甫となります。秀甫は秀栄に七段を贈りました。秀栄との十番碁は5勝5敗で終わりましたが、この最終局が秀甫の絶局となり、その2ヶ月後の10月14日に亡くなりました。本因坊在位はわずか2ヶ月でした。

評価

秀甫は、中江兆民の著書で「近代非凡人三十一人」に数えられるほどの名声を得ていましたが、道策、秀和、秀策、秀栄などの大名人たちに比べると知名度は低いかもしれません。しかし、師やライバルに恵まれ、彼らとの対戦成績も劣ってはいません。師の秀和は、秀策がもし存命していたとしても秀甫には勝てなかったのではないか、と語ったとされています。現代の碁界でも、秀甫を大名人たちの列に連なる実力者と評価する声は少なくありません。藤沢秀行の名前は、少年時代から心酔していた秀甫に由来すると言われています。

関連項目

本因坊秀策
中川亀三郎
本因坊秀栄

参考文献

相場一宏、福井正明「碁界黄金の十九世紀（第28-30回）」（「碁ワールド」誌 2004年10-12月号）
林海峯・井口昭夫・林裕『秀甫』筑摩書房〈日本囲碁体系〉 1976年
高木祥一（解説）『方円新法 (教育社新書―原本現代訳)』 1990年
石田章『古典名局選集 黎明秀甫』（日本棋院） 1996年
福井正明『名人・名局選 秀甫』（誠文堂新光社） 2009年

外部リンク

* 木石庵「本因坊秀甫」

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