本多康穣

本多康穣：近江膳所藩最後の藩主の生涯

本多康穣は、近江国膳所藩の最後の藩主であり、康俊系本多家宗家の14代当主として歴史に名を刻みました。天保6年（1835年）、第12代藩主・本多康禎の六男として誕生しました。幼少期から、激動の幕末期を生き抜くこととなります。

安政2年（1855年）、兄である第13代藩主・本多康融の養子となり、安政3年（1856年）には家督を継承しました。幕末の動乱期、康穣は藩主として数々の重要な役割を担いました。京都御所の警備、和宮親子内親王の警護、孝明天皇の行幸警護など、朝廷や幕府に深く関わる任務に携わっています。

しかし、康穣の政治的立場は一貫していませんでした。幕府による長州征討に反対する提言書を提出するなど、独自の判断を示す場面もありました。元治元年（1864年）の禁門の変では、御所の警備にあたりましたが、藩内では尊王派と佐幕派が激しく対立していました。この対立は、14代将軍・徳川家茂の膳所への宿泊が中止になるほど深刻なものでした。

藩内抗争は激化し、佐幕派が尊王派11名を処刑する「膳所城事件」（膳所藩十一烈士）が発生します。しかし、その後は尊王派が勢力を盛り返し、佐幕派の川瀬太平が尊王派に殺害される事件が起こると、再び勢力図が逆転しました。慶応4年（1868年）の戊辰戦争では、新政府側に加担し、伊勢桑名藩を攻撃する出兵を行いました。

康穣は、諸藩に先駆けて版籍奉還を願い出、明治2年（1869年）6月には版籍奉還により膳所藩知事に任命されました。しかし、明治4年（1871年）7月の廃藩置県により、知藩事の職を免職されました。その後、明治17年（1884年）の華族令によって子爵に叙せられ、華族として新たな道を歩み始めます。

明治35年（1902年）には、神道大教第3代管長に任命され、従二位に昇叙されました。これは、康穣が政治家としての経験に加え、宗教界においても重要な役割を果たしたことを示しています。明治45年（1912年）、脳溢血のため、78歳で生涯を閉じました。

康穣の生涯は、激動の幕末から明治へと続く時代の変遷を象徴するものでした。藩主としての政治的決断、藩内抗争への対応、そして明治政府への適応など、様々な困難を乗り越えながら、時代と共に変化していく柔軟性と、自身の信念を貫く強さを持ち合わせていました。彼の功績は、近江膳所藩の歴史、そして日本の近代化に貢献した人物として、後世に語り継がれるべきものです。

系譜

実父: 本多康禎
実母: 操姫（島津斉宣の娘）
養父: 本多康融
妻: 酒井鋹子（酒井忠発の娘）
* 養子: 本多康直（本多忠寛の次男）、本多康虎（伊達宗徳の次男）

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