朱善

朱善（しゅ ぜん、1314年 - 1385年）は、元末から明初の激動期を生きた学者であり、その生涯は学問への情熱と社会への貢献に彩られています。字は備万、号を一斎と称しました。本貫は隆興府豊城県です。

幼少期から才能を発揮し、わずか9歳にして経書や史書の要旨を理解し、文章を作成する能力を備えていました。父は朱隠（号は灊峰先生）で、学問の家系に生まれたことが、彼の成長に大きな影響を与えたと考えられます。

元末の混乱期には、戦乱を避けて山中に身を隠し、継母に孝養を尽くしたことで知られています。この時期の経験は、彼の人間形成に深く影響を与えたでしょう。明朝が成立すると、洪武帝の治世下で南昌教授として公職に就きました。

洪武8年（1375年）、科挙において首席の成績を収め、状元として名を馳せました。その才能が認められ、翰林院修撰に任じられます。しかし、翌年には上奏の内容が洪武帝の意に反したため、翰林院典籍に転じられ、故郷へと追放されてしまいます。この出来事は、彼のキャリアにおける大きな挫折となりました。

それでも、朱善の才能は埋もれることなく、洪武17年（1384年）には再び召し出され、翰林院待詔として復帰を果たしました。この時、彼は婚姻律に関する重要な上疏を行い、その中で母方の親族間の結婚に関する問題点を指摘しました。当時の法律では、母方のおばやおじ、いとこ同士の結婚が禁じられていましたが、朱善は、母方のいとこ同士は尊卑の関係がないため、婚姻を禁止する必要はないと主張しました。彼は歴史的な事例や慣習を引き合いに出し、この問題を深く掘り下げました。彼の進言は洪武帝に受け入れられ、婚姻律が緩和されることとなりました。この一件は、彼の進言が社会に影響を与えた好例と言えるでしょう。

さらに、宮中の宴会では、劉三吾や汪叡と共に三老と称えられ、その人格と学識が広く認められました。洪武18年（1385年）には、文淵閣大学士という要職に抜擢され、学問の世界における最高峰にまで到達しました。同年5月には、范浚の著書『心箴』を皇帝に講義し、9月には『周易』の家人卦を講義して洪武帝を喜ばせました。これらの出来事は、彼の学識と弁舌の巧みさを示すものです。

しかし、その才能と活躍も長くは続かず、退官を願い出て故郷に帰った直後に72歳で生涯を閉じました。彼の死は、多くの人々に惜しまれました。

正徳年間には、その功績を称えられ文恪と追諡されました。著書には『詩解頤』4巻、『史輯』、『一斎集』10巻などが存在し、彼の学問的遺産は後世に受け継がれています。朱善の生涯は、その才能と不屈の精神、そして社会への貢献によって、歴史に名を刻むことになりました。

朱善は、単なる学者にとどまらず、社会の矛盾に果敢に挑み、改革を推し進めた人物でした。彼の生涯は、私たちに、知性と勇気を持って社会に関わることの大切さを教えてくれます。

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