朱异

朱异（しゅ い、483年 - 549年）は、中国南北朝時代の南朝梁に仕えた政治家、学者です。字は彦和（げんか）。

呉郡銭唐県（現在の浙江省杭州市）の出身で、父は呉平令の朱巽之、母は顧歓の娘という家柄でした。寒門の出身でありながら、広く諸学に通じ、その才能が梁の武帝に認められ、寵愛を受けました。頭角を現した朱异は、次第に国政の枢機に参画し、強大な権勢を誇るようになります。

太清2年（548年）、北朝の東魏から侯景が自身の支配する州郡を差し出して梁に帰順を申し出ると、朱异はいったんはこれを受け入れます。しかし、侯景と梁軍が東魏との戦いで大敗を喫すると、手のひらを返すように侯景を見捨て、東魏と和平を結ぶことを武帝に進言しました。この進言が侯景の立場を危うくし、結果として侯景の乱を誘発する一因となります。

首都建康の防衛責任者であった中領軍の地位にありながら、朱异は軍の指揮能力に欠けていました。そのため、防衛は侯景と同じく降将であった羊侃の尽力によって支えられるという状況でした。太清3年（549年）正月、建康が侯景軍に包囲される中、朱异は病死しました。享年67歳。その死後、武帝は特例として尚書右僕射の官位を追贈しています。

朱异が登用された背景には、武帝が推進した九品官人法の改革と、武官の台頭を抑制し、儒教的教養を持つ人材を登用・抜擢しようとする賢才主義がありました。長く中書舎人を務めたことからも、彼自身は有能な人物であったと考えられます。しかし、侯景の帰順を巡る判断ミスに加え、武官ではない朱异を軍の要職に任じた武帝の人事政策が、梁に致命的な打撃を与えることになったと言えるでしょう。

日本の『平家物語』では、朱异は国政を誤り国を傾けた奸臣として描かれています。序文において、秦の趙高、漢の王莽、唐の安禄山と並び、奸臣の代表として挙げられています。

『平家物語』巻一の書き出しである「祇園精舎」は、中学高校の古文の教科書にも必ず掲載される有名な一節です。その中で、風の前の塵と同じようにあっけなく滅び去った過去の権力者の一人として「周異」（しゅうい）の名が登場します。

なお、『平家物語』における朱异の表記には、「朱异」、「周伊」、「周異」といったバリエーションが見られます。

参考文献

『梁書』巻38
『南史』巻62

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