朱慈烺

明朝最後の皇太子、朱慈烺

朱慈烺（しゅ じろう）は、明朝最後の皇帝、崇禎帝の長男として生まれました。崇禎2年（1629年）に誕生し、翌年には皇太子に立てられましたが、明朝は内憂外患に苦しむ時代でした。

崇禎17年（1644年）、李自成の反乱軍によって北京が陥落すると、崇禎帝は自害し、朱慈烺は明の将軍、呉三桂のもとへ逃れました。呉三桂は彼を新たな皇帝に擁立しようとしましたが、朱慈烺は間もなく病死したとされています。享年16歳。

南[[明]]政権は、朱慈烺に献愍太子、後に悼皇帝という諡号を贈りました。

南京に現れた偽太子

明朝滅亡後、南京で成立した南[[明]]政権は、内部の権力闘争に明け暮れていました。弘光元年（1645年）2月、そんな混乱の中、一人の少年が南京に現れ、「私は太子、朱慈烺だ」と名乗りました。

少年は宮廷の事情にも詳しく、その主張は多くの市民を惹きつけました。しかし弘光帝は、少年を延慶長公主の孫である王之明と断定し、取り調べを行いました。裁判の場でも少年は「私は明之王である」と主張を曲げず、激しく抵抗しました。弘光帝は少年を投獄し、後日公開処刑するとしましたが、この事件は南[[明]]政権に大きな混乱を引き起こしました。将軍の左良玉は、少年を救出するという名目で反乱を起こすほどでした。

少年は、投獄後、暴徒に助けられて脱獄しましたが、間もなく清軍に捕らえられ、弘光帝と共に処刑されました。

北京に現れた偽太子

一方、北京では、朱慈烺が病死したとされた後、一人の少年が周皇后の父、周奎の家に現れました。少年は「自分こそが太子、朱慈烺である」と主張し、混乱に乗じて逃亡したと語りました。太子の妹である長平公主は、少年を見るなり号泣したと言われています。

しかし、周奎は自分の家に累が及ぶことを恐れ、少年を説得して書生の劉氏と名乗らせようとしました。しかし、少年はこれを拒否し、騒ぎを起こしたため巡捕に引き止められました。この騒ぎは多くの市民の目に触れ、少年が本物の太子ではないかという噂が広まりました。

裁判では、周奎とその家族は少年との面識を否定しましたが、多くの侍従や宦官が少年を太子だと証言しました。裁判官の銭鳳覧は、少年を本物の太子だと判断しましたが、他の証人は詐欺師だと断定しました。この裁判は、清朝の摂政王ドルゴンによって「上官侮辱罪」として多くの関係者が処刑される事態となりました。そして、少年は太医院に軟禁されました。

後に、太子を救出するという名目で暴動が起きましたが、少年は最終的に密かに処刑されました。

史書における記録

正史である『明史』では、太子は李自成軍の敗走時に行方不明になったとされ、南京に現れた太子は偽物とされています。北京での事件に関する記述はありません。しかし、『清世祖実録』や『清史稿』などの史料では、北京での事件が詳しく記述されています。

この二つの偽太子事件は、明朝滅亡後の混乱期における人々の不安と希望を象徴する出来事として、後世に語り継がれています。

もう一度検索