長平公主

長平公主の生涯

長平公主（ちょうへいこうしゅ）は、明朝の最後の皇帝、崇禎帝（すうていてい）の娘として生まれました。彼女の本名は朱媺娖（しゅ びそく）とされていますが、別名として朱徽媞（しゅ きてい）という説もあります。しかし、これは泰昌帝の娘である楽安長公主との混同であると考えられています。生母は身分が低く、早くに亡くなったため、周皇后によって育てられました。

1644年、明朝が滅亡した際、長平公主は16歳でした。当時としては結婚適齢期であり、周世顕（しゅうせいけん）との婚約が決まっていましたが、崇禎帝は娘を溺愛するあまり、なかなか結婚を許しませんでした。李自成率いる反乱軍が北京に迫ると、文武百官は皇帝を見捨てて逃亡し、北京は陥落します。崇禎帝は皇子たちを逃がした後、妻妾と娘たちを自らの手で殺害しようとしました。愛娘である長平公主の番になると、崇禎帝は悲しみのあまり「なぜお前は皇帝の娘に生まれてしまったのか！」と嘆き悲しみました。しかし、涙でよく見えないまま刀を振るったため、長平公主は左腕に傷を負っただけで済みました。この時、最後まで皇帝に付き従っていた宦官の王承恩（おうしょうおん）が、機転を利かせて「公主は亡くなった」と偽り、密かに逃がしました。一説には、翌朝、李自成が負傷した袁皇貴妃と長平公主を見て、「主上はあまりに無慈悲だ！」と嘆息したとも伝えられています。その後、長平公主は劉宗敏（りゅうそうびん）に引き渡され、李自成軍が敗走した後は、周奎（周皇后の父）の家で過ごしました。

後に、清の摂政ドルゴンによって庇護され、婚約者であった周世顕と結婚しました。しかし、長平公主自身は出家して隠棲することを望んでいたとされています。ドルゴンは長平公主を哀れみ、結婚と生活のために、土地や屋敷、金品などを与えましたが、明朝滅亡から2年後、彼女は亡くなります。この時、お腹には子供がいたと伝えられています。

民間伝説

民間には、明朝滅亡後、長平公主が尼となり、武芸を身につけて「独臂神尼（どくひしんに）」と名乗り、反清復明運動に参加したという伝説があります。この伝説では、彼女は呂四娘（りょしじょう）などを弟子にしたとされていますが、これはあくまでも伝説であり、史実ではありません。この伝説は、金庸（きんよう）の小説『碧血剣（へきけつけん）』の阿九（あきゅう）や、『鹿鼎記（ろくていき）』の九難（きゅうなん）、梁羽生（りょううせい）の『江湖三女侠（こうこさんじょきょう）』の独臂神尼など、多くの創作作品のモチーフとなっています。

偽皇太子事件

1644年、周奎の家に明朝の皇太子、朱慈烺（しゅじそう）を名乗る少年が現れ、周家の者と争った末に、清朝の役人に捕らえられるという事件がありました。周家の者は、法廷でこの少年が本物の皇太子であることを否定しましたが、長平公主は周奎の家で少年と会った際、号泣し、法廷でも一貫して少年が自身の兄であると主張しました。しかし、少年は皇太子を騙る偽物として投獄され、後に処刑されました。

まとめ

長平公主は、明朝滅亡という激動の時代に翻弄された悲劇の皇女です。彼女の生涯は、史実と伝説が入り混じり、様々な創作作品を生み出す原動力となりました。史実では、彼女は短い生涯を終えましたが、伝説の中では、反清復明運動の象徴として、人々の心に生き続けています。

参考文献

『明史』 - 列伝第九 公主伝
『長平公主誄』
『北游録』
『春明夢余録』

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