朱肉

朱肉とは

朱肉は、印鑑を使用する際に、印影を紙などに写すために使われる赤い色の印肉のことです。中国では「印泥」と呼ばれています。朱肉を入れる容器は「肉池」または「印池」と言います。

歴史

印鑑自体は古くから世界各地で使用されていましたが、朱肉の歴史は意外と新しく、中国の宋代に登場したとされています。それ以前は泥が使われていたため、朱肉の別名が「印泥」となっているようです。また、中国南西部の山岳地帯では、特別な儀式で羊の生き血を朱肉の代わりに使用していたという記録もあります。

日本では、江戸時代に武士階級のみ朱肉の使用が許され、庶民は黒色の印肉を使用していました。朱色が使われるようになったのは、縁起の良い色であり、魔除けの色でもあると考えられたためです。神社の鳥居が朱色なのも同様の理由です。

現在では、公文書への押印を含め、朱色以外やグラデーションの朱肉を使用しても問題ありません。

特徴

朱肉の主な原料は、乾燥させたヨモギから作られる「艾（もぐさ）」、硫化水銀である「珠砂（しゅさ）」、そして植物油です。天然の珠砂は高価なため、ほとんどの場合、人工的に合成されたものが使われています。また、現在市販されている印泥の多くは中国で製造されています。

種類

朱肉には、大きく分けて「練り朱肉」と「スポンジ朱肉」の2種類があります。

練り朱肉

練り朱肉は、硫化水銀を昇華させた「銀朱」に、ひまし油、木蝋、松脂などを加えて練り固めたものです。ヨモギの葉の裏毛や和紙が加えられることもあります。練り朱肉は、2か月に1度以上練らないと腐敗する可能性があるため、定期的なメンテナンスが必要です。朱の色は、自然界の辰砂（硫化水銀）に由来しますが、近年では、環境への影響を考慮して、鉄、モリブデン、アンチモンなどの化合物に置き換える動きも出てきています。

スポンジ朱肉

スポンジ朱肉は、朱をスポンジに染み込ませたものです。練り朱肉のように練り固める必要がないため、手軽に使用できます。

色彩

朱肉の色は、原料や製法によって微妙に異なります。

箭鏃朱砂印泥: 黄色っぽく鮮やかな色
光明朱砂印泥: 赤みを増した色
美麗朱砂印泥: さらに濃い赤色

保存方法

朱肉は非常にデリケートで、温度や湿度の変化に弱い性質があります。冬は固くなりやすく、夏は柔らかくなりやすいため、保管場所には注意が必要です。湿気や乾燥を避けるため、直射日光の当たらない場所に保管するのが良いでしょう。また、朱肉は放置しておくと油分と朱の成分が分離してしまうため、使用前にはヘラなどでよく混ぜる必要があります。分離した油分が表面に浮いてしまうと、印影が滲む原因になるため、注意が必要です。使用後は、必ず木箱に戻し、塵や埃の侵入を防ぐようにしましょう。

その他

朱肉は、印章文化において重要な役割を担っています。朱色の印影は、契約書などの重要な書類に使用され、その効力を示すために用いられます。

脚注

注釈

出典

参考文献

平川陽一『今さら誰にも聞けない500の常識』廣済堂出版、2003年7月。ISBN 9784331653395。

関連項目

印章
スタンプ台
印鑑ホルダー
印鑑マット
シヤチハタ
封泥・封蝋
* 黒肉

もう一度検索