杉田一次

杉田一次：激動の時代を生き抜いた軍人

杉田一次（すぎた かずし）は、1904年（明治37年）3月31日に生まれ、1993年（平成5年）4月12日に没した、日本の陸軍軍人、そして陸上自衛官です。陸軍士官学校と陸軍大学校を卒業後、帝国陸軍では大佐まで昇進、戦後は陸上自衛隊で陸上幕僚長たる陸将を務めました。

対米開戦への抵抗とマレー作戦

杉田は、アメリカ陸軍への駐在経験や在アメリカ大使館駐在武官補佐官としての経験から、対米開戦に強く反対しました。海軍をも巻き込み開戦を阻止しようと尽力しましたが、上層部を説得することはできませんでした。その後、第25軍情報参謀としてマレー作戦に従軍、シンガポールの戦い後の降伏交渉では、山下奉文将軍の通訳として、イギリス軍への降伏勧告文の起案に携わりました。

ガダルカナル作戦と撤退

ガダルカナル作戦では、大本営派遣参謀として現地に赴き、第2師団の作戦に関与しました。その後、第8方面軍編成に伴いラバウルへ異動。ガダルカナルの維持は不可能と判断し、大本営に撤退を進言しましたが、「消極参謀」と批判されました。しかし、大本営は最終的に撤退を決定し、その撤退計画の立案を杉田が担当しました（井本熊男作戦主任参謀が病床にあったため）。この撤退作戦は米軍をして「PERFECT!」と感嘆させるほど完璧なものでした。

大本営への危機感と作戦課での活動

大本営の情報軽視の体質に危機感を抱いた杉田は、自ら作戦課に異動し、作戦業務に関与しました。課長から班長への異例の降格人事の形で作戦課高級参謀兼作戦班長に就任し、情報収集と分析に尽力しました。

終戦と戦犯裁判、そして自決未遂

終戦を迎えると、杉田は東久邇宮首相秘書官に就任し、進駐軍受け入れにおいて米極東軍のサザランド参謀長との調整にあたりました。また、ミズーリ号での調印式にも日本側全権団の一員として参列しました。

戦後、杉田はシンガポール華僑粛清事件の戦犯裁判対策のための報告をまとめるため、俘虜関係調査中央委員会第4班に加わりました。その後、容疑者として逮捕されシンガポールのチャンギ刑務所に送致。裁判では検察側証人として出廷することになりました。しかし、上官の罪を証言することに耐えられず、「死の抗議」と記した遺書を残し自決を図りますが、一命をとりとめました。この遺書には、英国の精神的残虐行為への抗議と、在留日本軍将兵のために英国当局に反省を促す目的が記されていました。

戦後の活動と陸上自衛隊

戦後は、GHQ歴史課で戦史研究に携わったほか、情報機関設立に関与しました。吉田茂首相からの信任も厚かったとされています。その後、陸上自衛隊に入隊し、1960年3月から1962年3月まで第4代陸上幕僚長を務めました。陸幕長退任時には、後任には元軍人が望ましいと防衛庁長官に進言しましたが、内局の妨害により実現しませんでした。

退官後は、社団法人日本郷友連盟会長、社団法人安全保障懇話会理事長、東京都防衛協会会長など、多くの要職を歴任しました。

年譜

杉田は、郡山中学を卒業後、陸軍予科士官学校を経て、1925年（大正14年）に陸軍士官学校を卒業。その後、陸軍大学校を卒業し、参謀本部勤務、アメリカ駐在、マレー作戦などを経て、大本営参謀となりました。終戦後、公職追放を経て、警察予備隊に入隊。その後、陸上自衛隊に入り、陸上幕僚長を務めました。

著書と栄典

杉田は、その経験を活かし、『忘れられている安全保障』『近代日本の政戦略』『情報なき戦争指導』など、多数の著書を執筆しました。また、1962年にはレジオン・オブ・メリット・コマンダーを、1974年には勲二等瑞宝章を受章しました。1993年（平成5年）に亡くなり、正四位が贈られました。

杉田一次は、激動の昭和史を生き抜き、日本の国防と安全保障に多大な貢献をした人物として、その名が記憶されるべきでしょう。

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