井本熊男

井本熊男の生涯

井本熊男（いもと くまお）は、1903年（明治36年）5月1日に山口県で生まれ、2000年（平成12年）2月3日に亡くなった、日本の陸軍軍人、そして陸上自衛官です。最終階級は陸軍大佐、陸上自衛隊では陸将にまで昇進しました。

軍歴

1925年（大正14年）に陸軍士官学校を302名中1番の成績で卒業し、歩兵少尉に任官しました。その後、歩兵中尉、大尉へと昇進し、1934年（昭和9年）には歩兵第48聯隊第5中隊長を務めました。

1935年（昭和10年）からは、参謀本部作戦課に配属され、細菌戦に関して731部隊などの細菌戦部隊と陸軍中央との連絡を担当しました。この時期から、井本は細菌戦という特殊な分野に関わることになります。

1938年（昭和13年）に歩兵少佐に昇進。1939年（昭和14年）には支那派遣軍参謀、1940年（昭和15年）には参謀本部部員（作戦課で対南方作戦全般を担当）を歴任。1941年（昭和16年）には中佐（1940年に兵科が撤廃）に昇進し、1942年（昭和17年）には陸軍大臣秘書官に就任しました。同年12月には、第8方面軍参謀としてガダルカナル島からの撤退作戦を担当しました。1943年（昭和18年）には参謀本部部員、大本営陸軍参謀を歴任し、1944年（昭和19年）には陸軍大臣秘書官兼陸軍省副官に大本営陸軍参謀を兼務、同年3月には大佐に昇進しました。

終戦間際には、第2総軍参謀に就任しましたが、1945年（昭和20年）8月6日の広島市への原子爆弾投下で被爆し、負傷しました。戦後の1947年（昭和22年）には公職追放となりましたが、1952年（昭和27年）には警察予備隊に入隊し、第4管区総監（保安監補）を務めました。

1954年（昭和29年）には統合幕僚会議事務局長、1959年（昭和34年）には陸上自衛隊幹部学校校長を歴任し、1961年（昭和36年）に退官しました。

服部卓四郎との関わり

井本は、戦前から服部卓四郎と上司部下の関係にありました。戦後、復員省で再会し、服部から再軍備の研究に必要な同志の人選を依頼されます。井本は、原四郎や稲葉正夫らを誘い、同志としました。その後、西浦進、堀場一雄が加わり、服部グループと呼ばれる集まりが形成されました。

服部グループは、再軍備の研究だけでなく、極東国際軍事裁判におけるA級戦犯の弁護資料作成なども行いました。特に、井本、西浦、服部の3人は東條英機の死刑執行後、東條家を弔問し、その後も追悼法要に欠かさず参列しました。

朝鮮戦争の勃発を受け、服部グループは再軍備時に必要な中堅幹部として、元陸軍軍人400～500名を選定し、政府からの要請があれば承諾するように働きかけましたが、これは実現しませんでした。しかし、井本自身は、辰巳栄一が率いる辰巳機関の人選により、警察予備隊に入隊することができました。

服部グループは「大東亜戦争全史」の編纂にも携わりましたが、井本自身は国際軍事裁判の法廷活動や警察予備隊の仕事、病気などにより、原稿審議の一部にのみ参加しました。

その後、服部グループは史実研究所という団体を設立し、政治家や旧陸海軍の高官と交流し、米軍や防衛庁にも調査助言などを行いました。井本も史実研究所の一員として活動しましたが、1960年（昭和35年）に服部が亡くなると、翌年、自衛隊を退官した井本が史実研究所の責任者となりました。しかし、1965年（昭和40年）頃には米軍との関係が途絶え、井本自身も健康を害したことから、所蔵資料を防衛研修所戦史室に移し、1971年（昭和46年）3月31日に史実研究所は解散しました。

著作

井本は、以下の著作を出版しています。

『作戦日誌で綴る支那事変』(1978年6月) 芙蓉書房、（改題）『支那事変作戦日誌』芙蓉書房出版、1998年12月
『作戦日誌で綴る大東亜戦争』(1979年12月) 芙蓉書房、（改題）『大東亜戦争作戦日誌』芙蓉書房出版、1998年8月
* 『所謂服部グループの回想』、2004年「軍事史学」第39巻第4号、軍事史学会編


井本熊男は、激動の時代を軍人として生き抜き、戦後は再軍備の研究や後進の育成に尽力した人物でした。

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