村上朝一

村上 朝一（むらかみ ともかず）

村上 朝一は、日本の裁判官であり、第6代最高裁判所長官を務めた人物です。1906年（明治39年）5月25日に生まれ、1987年（昭和62年）2月13日に逝去しました。

福岡県に生まれた村上朝一は、旧制第三高等学校を経て、東京帝国大学法学部に学びました。大学卒業後、1929年に裁判官としてのキャリアを大阪でスタートさせました。その後、大阪や京都、東京など各地の地方裁判所で裁判官を務めました。1938年には司法省民事局に勤務し、法制関連の業務に携わります。

太平洋戦争中は、陸軍司政官としてオランダ領東インド（現在のインドネシア）のジャワ島、ジャカルタに派遣されました。しかし、終戦により現地で抑留生活を送ることとなります。

終戦を経て日本に復員した後、再び司法省民事局に戻り、戦後の民法改正作業に深く関与しました。その後の1948年からは、法務庁（後の法務省）民事局長として約10年間にわたりこの要職を務めました。民事局長時代には、サンフランシスコ平和条約の発効に伴い、在日朝鮮人や在日台湾人の国籍及び戸籍事務の処理に関する重要な通達を発出しています。これにより、平和条約が発効した1952年4月28日以降、在日朝鮮人・台湾人は平和条約国籍離脱者として日本の戸籍から除かれ、外国人としての地位が明確化されました。

また、民事局長在任中の1954年3月には、保全経済会事件を巡り、衆議院の行政監察特別委員会に証人として喚問されています。

法務省を離れた後、彼は「検察においても民事分野の知識が重要である」との考えから、最高検察庁の公判部長に就任するという異色の経歴を歩みます。ここでは、八海事件や松川事件といった著名な事件の公判において、検察側の主張の組み立てに携わりました。

検察での経験を経て、再び裁判所の世界に戻ります。横浜地方裁判所長、東京高等裁判所判事（部総括）、仙台高等裁判所長官、そして東京高等裁判所長官を歴任し、司法官僚としてだけでなく、現場の責任者としても手腕を発揮しました。

1969年には最高裁判所判事に任命されます。そして1973年5月21日、石田和外長官の後任として、職業裁判官出身者として第6代最高裁判所長官に就任しました。長官就任にあたって、石田前長官時代に司法界で指摘された「司法の危機」については、「司法の危機はなかった」との認識を示しつつも、誤解があれば解消に努めるべきだと強調。一連の出来事における最高裁の対応は公正かつ妥当であったとの考えを示しました。

長官としての司法行政においては、初めての高裁長官・地方所長会合で「迅速な裁判」の実現と「判事補の育成指導」の重要性を訓示しました。また、司法に対する世間の理解を深めるため、司法記者との懇談会を定期的に開催するなど、開かれた司法を目指す姿勢も見せました。

村上長官の在任中には、現在の最高裁判所庁舎が東京都千代田区隼町に完成しています（1974年5月）。さらに、同年には最高裁判所と法務省の間で判事と検察官の交流を促進する協定が締結され、その後の判検交流増加の基礎が築かれました。

最高裁判所長官としての最も歴史的な判断の一つに、1976年4月14日の一票の格差訴訟に関する最高裁大法廷判決があります。彼は裁判長として、戦後の衆議院議員選挙において初めて選挙区間の人口比率による一票の価値の差が憲法違反であるとの判断を示しました。しかし同時に、「事情判決の法理」を適用し、選挙自体を無効とすることは避けました。この判決について、退官後に「事情判決に公職選挙法を適用することには勇気が必要だった」と述懐しています。

1976年5月24日に定年により最高裁判所長官を退官しました。退官後、1976年11月3日には勲一等旭日大綬章を受章しています。また、逝去後の1987年2月13日には従二位を追賜されました。

家族としては、父も兄も医師であり、長男の村上淳一氏は東京大学法学部教授としてドイツ法を専門としました。多彩なキャリアと最高裁長官としての重要な判断を残した村上朝一は、戦後日本の司法史において特筆すべき人物の一人です。

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