村井信平

村井信平：釜石製鉄所を支えた技術者の生涯

村井信平（1883年11月 - 1969年3月24日）は、岩手県釜石市出身の機械技術者であり、日本の近代製鉄の礎を築いた一人です。父は釜石鉱山田中製鉄所の設立時から尽力した村井源兵衛。信平自身も、明治、大正、昭和の時代を通じて釜石製鉄所に長く勤務し、その発展に貢献しました。また、彼は釜石町会議員としても地域社会に貢献しています。

製鉄と共に歩んだ人生

1883年（明治16年）に釜石で生まれた信平は、幼い頃から製鉄所の隆盛を肌で感じて育ちました。父・源兵衛は、1875年（明治8年）に工部省鉱山局釜石支局に採用され、日本初の官営製鉄所で働きましたが、技術的な問題から操業は頓挫。その後、田中長兵衛が製鉄所を引き継ぎ、源兵衛は機械設備主任としてその再建に尽力しました。1886年（明治19年）には、ついに連続出銑に成功し、日本の近代製鉄の歴史に新たな一歩を刻みました。

信平は、製鉄所の社宅で育ち、東京の田中長兵衛邸に住み込みながら、東京府立第四中学校、東京高等工業学校機械科で学びました。卒業後、技師として釜石製鉄所に入所。田中、三井、日鉄と経営母体が変わる中で、31年間もの間、製鉄所を支え続けました。その豊富な知識から「釜石製鉄所の生き字引」と称されました。

地域社会への貢献

1933年（昭和8年）には、釜石町会議員に当選し、昭和三陸地震からの復旧に尽力しました。製鉄所では、製鋼課や圧延課の課長を歴任し、1937年（昭和12年）には新設された動力課長に任命されています。1938年（昭和13年）に退職後は、室蘭製鋼所や東京本社に勤務し、戦後は故郷の釜石に戻りました。

知られざるエピソード

信平と慶應義塾長の小泉信三との間には、意外な交流がありました。小泉は、釜石製鉄所所長を務めた横山久太郎の長男の義兄にあたり、その縁でたびたび釜石を訪れていました。学生時代の信平は、小泉と共に石炭運搬用の汽船で室蘭へ遊覧した際、悪天候に見舞われましたが、小泉は動じることなく食事をしていたそうです。

また、戦災で家を失った信平の妻が困窮していた際、かつての同僚であった三鬼隆が多額の現金を渡してくれたというエピソードも残っています。信平は、三鬼の親切心に深く感動したと語っています。

晩年と著書

晩年、信平は初代・田中長兵衛の孫である横山康吉から依頼を受け、『田中時代の零れ話』を執筆しました。また、富士製鉄の社内報担当者であった半澤周三のもとを訪れ、往時の話を語ることもあったそうです。1969年（昭和44年）3月24日、85歳でその生涯を閉じました。

村井信平の長男・壽郎は数学を得意とし、早稲田大学理工学部機械工学科を卒業後、日本製鋼所に勤務しました。信平は妻・益子との間に、壽郎のほか、二男二女をもうけました。

村井信平は、日本の近代製鉄の歴史を支えただけでなく、地域社会にも貢献した人物でした。彼の生涯は、日本の産業史を語る上で欠かせないものとなっています。

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