杜豊 (元)

杜豊（と ほう）

杜豊（1190年 - 1256年）は、金朝末期からモンゴル帝国初期にかけて活躍した人物です。字は唐臣。

生涯

汾州西河県（現在の山西省汾陽市）の出身。父の杜珪は人々に施しを好む善人として知られていました。幼い頃から大志を抱き、兵法を学んだ杜豊は、金朝に仕えて平遥義軍謀克の地位を授けられます。しかし、チンギス・カンの金朝侵攻が始まると、太原が陥落した際に部下を率いてモンゴルに投降しました。

アルチ・ノヤンは杜豊の投降を歓迎し、兵馬都提控の地位を与えました。以後、杜豊はアルチャル率いる軍団に属し、数々の戦で武功を挙げます。平陽の戦いでは、誰よりも早く城壁に登るという功績を挙げ、絳州・解州の諸堡を平定し、3万を超える流民を招集しました。これらの功績により、征行元帥左監軍に任じられ、金朝が河南一帯に追い詰められると、杜豊は河北地方に駐屯しました。

1220年、上党の張開が1万余りの兵を率いて汾州に侵攻すると、杜豊は精鋭騎兵5000を率いてこれを打ち破りました。その後、アルチャルの指揮下に入り、温谷寨・木澗寨・洪洞西山などの攻略に貢献しました。また、武仙が平陽から太原にかけて勢力を拡大すると、これに備えました。1222年には、龍虎衛上将軍・河東南北路兵馬都元帥の地位を授けられ、玉女寨・割渠寨を攻略する功績も挙げています。

1226年、アルチ・ノヤンの益都攻撃に加わった杜豊は、益都側が反撃を仕掛けると、これを撃退し、千人以上の首を討ち取り、20人を捕虜にするという大きな戦果を挙げました。益都の陥落後も、山東地方の登州・萊州の平定に貢献しました。1229年には、沁州を奪取し、銅鞮・武郷・襄垣・綿上・沁源といった周辺の県を平定しました。1235年には沁州長官に昇格し、その後10年以上にわたって沁州の統治に尽力しました。

杜豊は全真教とも関係が深く、1235年に全真教教団の長である尹志平が平遙県を訪れた際、杜豊の要請により道教の祭祀が行われました。尹志平は沁州を去る際に、杜豊に別れを惜しむ詩を送っており、両者の親交の深さが窺えます。河南省済源市の大紫微宮に現存する「天壇十方大紫微宮結瓦殿記」には、杜豊の一族が「長春国師（＝長春真人）の法訓を受けた」という記述があり、一族は早い段階から全真教に帰依していたと考えられます。また、尹志平の詩集『葆光集』や『清和真人北遊語録』の出版に際して、杜豊が出資者になったという記録も残っています。

1247年、杜豊は老齢を理由に引退し、1256年に67歳で亡くなりました。息子には杜思明・杜思忠・杜思敬らがいました。

妻：王体善

杜豊の妻である王氏（王体善）は、当時の女性としては珍しく名前や事績の記録が残っています。「天壇十方大紫微宮結瓦殿記」には、瓦を新しくするための布施を行った人物として「沁州長官保安居士杜徳康」と並んで「悟真散人王体善」の名前が挙げられています。同記録によると、王体善は「平陽府録事司」の娘であったとされています。

康熙『平遥県誌』巻5列女伝には、王体善が沁州を中心とする各地の道観の修復に携わり、道蔵を版刻したという記述があり、杜豊と同様に全真教への信仰が篤かったことがわかります。同書は王体善について、「夫を助けて善を為し、子を教えて材と為し、保安居士と号した」と総括しています。

参考文献

孫翔宇「尹志平時代における全真教の拡張:山西地方の世侯との交流を中心に」『文化』79巻、2016年
愛宕松男『東洋史学論集　4巻』三一書房、1988年
『元史』巻151列伝38杜豊伝
『新元史』巻148列伝45杜豊伝

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