東急デハ70形電車

デハ70形電車

デハ70形電車は、かつて東京急行電鉄（大東急）の軌道線、特に玉川線で活躍した電車です。大東急発足後初の玉川線向け新車として、デハ60形をベースに1942年から製造されました。しかし、戦時中の資材不足により計画された8両のうち6両の製造で中断、終戦後の1946年に残りの2両が完成しました。

車両概要

デハ60形に準じた車体形状を持ちながらも、いくつかの特徴的な変更点がありました。前後扉は車体中心方向に引き込まれる2枚重引戸となり、狭幅の戸袋窓が設けられました。この戸袋窓は、窓枠外周が外板に覆われる珍しい形状でした。また、屋根上のベンチレータはガーランド形から箱形に変更され、中央扉のステップ高さは左右扉と揃えられました。

当初から重連総括制御を念頭に設計されており、間接非自動制御 (HL) や非常管付直通制動を採用した初の形式となりました。連結器は戦後に設置され、連結運転が開始されました。

改造の歴史

1949年に集電装置がダブルポールからビューゲルに、1956年にはパンタグラフに変更されました。1967年には重連運転に対応するための改造が行われ、片運転台化、2重引戸の1枚化、全扉の自動化などが実施されました。運転台側の車端には、車掌の前方監視のために小窓が設けられ、変則的な4枚窓となりました。

1969年の玉川線・砧線廃止後は、世田谷線車両として残りました。塗色は鉄道線と同じライトグリーン一色となり、1983年までの更新工事で、張り上げ屋根、対称的な4枚窓の前面、2枚窓化された連結面、アルミサッシ窓などが採用され、デハ80形に似た外観となりました。この改造で、台枠中梁と台車枕梁程度しか元の部品は流用されず、車体はほぼ新造されたと考えられています。しかし、内装は木造ニス塗りの壁面と板張り床が維持され、非冷房と相まって独特の雰囲気を保っていました。

1990年代には、鉄道線初代3000系の廃車発生品であるシールドビーム前照灯や42芯ジャンパ連結器が装備され、制御電源がバッテリーに変更されました。特に前照灯は、前面腰板に2個設置されたことで、外観が大きく変化しました。

1995年ごろからは、台車が東急車輛製造製のTS332に交換され、駆動装置と制御方式が吊り掛け式から平行カルダンの抵抗制御に変更され、高性能化が図られました。この台車は元々阪堺電気軌道モ701形用の低床台車で、高床車体に合わせてスペーサーを挿入して使用されました。

廃車とその後

幾多の改造を受けながらも、高床ステップや非冷房といった課題が残ったため、デハ70形は300系の新造に伴い、2000年末までに全車廃車となりました。台車は交流誘導電動機に交換・整備され、300系に流用されました。多くは雪が谷検車区上町班で解体されましたが、78号は85号とともに東急車輛製造に搬入された後に解体されました。71号車の運転台部分のみが個人に引き取られ、現存しています。

連結2人のり

玉川線・砧線では、連結運転時に運転士と車掌のほか、連結部にも2名の乗務員が配置されていましたが、1967年からは合理化のため、扉自動化と乗降扉の分離が行われました。これにより、乗務員2名での運行が可能となり、東急ではこのシステムを「連結2人のり」と呼んでいました。

改造対象はデハ70形全車、デハ80形の一部、デハ150形全車、デハ200形全車でした。デハ70・80形は片運転台化されましたが、デハ150形は連結部に乗務員室が残されました。デハ200形は軽微な改造にとどまりました。玉川線廃止後はデハ200形が全車廃車され、デハ80形の一部が両運転台のまま改造を受け、検査予備車として使用されました。

後年の更新で「連結2人のり」の標識は撤去されましたが、現在の世田谷線でもこの方式が踏襲されています。ただし、車掌の職制は廃止され、運転士が扉扱いと安全監視を行い、後部乗務員室には運賃収受と旅客案内を行う案内係が乗務しています。

参考文献

『世界の鉄道 '64』 朝日新聞社 1963年10月

外部リンク

ウィキメディア・コモンズ - 東急デハ70形電車

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