東日本大震災・原子力災害伝承館
東日本大震災・原子力災害伝承館は、2020年9月20日に福島県双葉町に開館した、震災と原子力災害の記憶を後世に伝えるための施設です。博物館および情報発信拠点として、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震と、それに伴う津波および福島第一原子力発電所事故（国際原子力事象評価尺度レベル7）による複合災害の実相を伝えています。地上3階建てで、延床面積は約5200平方メートルに及びます。
施設の設立は、未曽有の複合災害を受けた後の動きとして始まりました。震災発生から4年が経過した2015年3月、「国際産学連携拠点に関する検討会」の中間報告の中で、震災と原発事故に関する情報発信拠点の必要性が示唆され、国による推進方針が明らかになります。これを受けて同年4月には「東日本大震災・原子力災害アーカイブ拠点施設有識者会議」が設置され、議論が重ねられた結果、2017年3月に基本構想としてまとめられました。
建設計画が進み、2018年末から2019年初頭にかけて工事が開始されました。建設期間中の2019年9月には、施設の正式名称が「東日本大震災・原子力災害伝承館」に決定しました。当初は2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックに合わせた開館を目指していましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により延期を余儀なくされ、最終的に2020年9月20日にグランドオープンを迎えました。建設費用や資料収集費を含めた約53億円の総工費は、全額を国が負担しています。
伝承館は、福島第一原子力発電所から北へ約3キロメートル、JR常磐線双葉駅からは約2キロメートルという、津波による甚大な被害を受けた沿岸部に位置しています。建物の設計は渡部和生氏率いる惟建築計画と日本大学工学部空間デザイン研究室が、施工は福島県内の建設会社による共同企業体が担当しました。構造は鉄筋コンクリート造を基本としつつ、一部に鉄骨が用いられた3階建てです。屋上からは、除染によって生じた廃棄物の中間貯蔵施設や、震災遺構として保存された旧双葉南小学校など、周辺の被災状況と復興の取り組みを象徴する風景を望むことができます。また、周辺地域では復興祈念公園の整備も進められています。建物の設計においては、万が一の津波襲来時にも重要な収蔵品や展示品を守るため、電源設備を屋上に設置し、収蔵庫や展示室を2階以上に配置するといった配慮がなされています。
館内の展示は、導入となる「プロローグ」から始まり、「災害の始まり」「原子力発電所事故直後の対応」「県民の想い」「長期化する原子力災害の影響」「復興への挑戦」という、合計6つの展示室を順路に沿って巡る強制動線方式が採用されています。特にプロローグでは、床面を含めた7面のスクリーンに震災発生前、直後、そして復興の情景が約4分間にわたって映し出され、来館者が災害を「自分事」として捉えるきっかけとなるよう意図されています。この円形ホールは、実際に被災体験を語る「語り部」による口演の場としても活用されるように設計されています。展示全体のナレーションは、福島県出身の俳優である西田敏行氏が担当しています。
伝承館の管理運営は、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構が行っています。この法人は、福島復興再生特別措置法の改正を受けて、福島・国際研究産業都市（イノベーション・コースト）構想を推進するため、2017年7月に福島県によって設立されました。運営には国の職員も関わっており、復興庁からの出向者も評議員として名を連ねています。
一方で、伝承館の展示内容や語り部による口演に関しては、開館当初から様々な課題や議論が指摘されています。特に、展示内容については、東日本大震災や福島第一原発事故における国、東京電力、そして福島県自身の責任や、そこから得られるべき教訓に関する記述が不十分であるという批判が多く寄せられました。具体的には、事故発生時に県が受け取ったSPEEDI（緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム）のデータを市町村に適切に伝えられず、結果的に住民を放射線量の高い方向へ避難させてしまった問題や、東京電力が震災前に試算されていた津波の可能性に対して対策を先送りした経緯などについて、十分な言及がないことが批判されました。福島大学の後藤忍准教授らは、展示内容が「教訓」よりも「復興への挑戦」を強調する傾向にあることを指摘し、過去の検証よりも前向きなアピールに偏っている可能性に警鐘を鳴らしました。また、開館までの展示案作成において、県庁内の担当課が原案を作成し、原子力安全対策課などの意向を受けて修正が行われた経緯や、展示点数が比較的少ないといった指摘もあります。こうした批判を受け、福島県は2021年3月、展示資料やパネルを約30点追加・変更すると発表し、内容の一部見直しを図りました。
また、語り部による口演の内容についても波紋が広がりました。開館直後、運営機構が語り部向けに配布したマニュアルに、「特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷等」を口演に含めないよう求める記載があったことが明らかになりました。研修会では、事前に原稿を提出し運営側の添削を受けることや、もし原稿にない批判を始めた場合には口演を中止したり、語り部登録を取り消す可能性があるといった説明も行われたとされます。これに対し、運営を所管する福島県の担当者は、国や東京電力なども「特定の団体」に含まれるとし、「第三者の批判を公的な施設で行うことはふさわしくない」との見解を示しました。この問題に関する一部報道は、伝承館が語り部の表現を検閲し、国などを批判する語り部を排除しようとしているかのような印象を与え、語り部自身に大きな心理的な影響を与えたという指摘も存在します。
伝承館の利用案内としては、開館時間は午前9時から午後5時まで（最終入館は午後4時30分）です。休館日は火曜日（ただし祝日の場合は開館し、翌平日を休館とする）および年末年始（12月29日から1月3日）となっています。入館料は、大人が600円、小中高校生が300円です。海外からの来場者向けには、英語、中国語、韓国語に対応した説明用のタブレット端末の貸し出しサービスも提供されています。施設に関する詳細情報や最新情報は、福島県および運営機構の公式ウェブサイトで確認することができます。
施設の設立は、未曽有の複合災害を受けた後の動きとして始まりました。震災発生から4年が経過した2015年3月、「国際産学連携拠点に関する検討会」の中間報告の中で、震災と原発事故に関する情報発信拠点の必要性が示唆され、国による推進方針が明らかになります。これを受けて同年4月には「東日本大震災・原子力災害アーカイブ拠点施設有識者会議」が設置され、議論が重ねられた結果、2017年3月に基本構想としてまとめられました。
建設計画が進み、2018年末から2019年初頭にかけて工事が開始されました。建設期間中の2019年9月には、施設の正式名称が「東日本大震災・原子力災害伝承館」に決定しました。当初は2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックに合わせた開館を目指していましたが、新型コロナウイルス感染症の拡大により延期を余儀なくされ、最終的に2020年9月20日にグランドオープンを迎えました。建設費用や資料収集費を含めた約53億円の総工費は、全額を国が負担しています。
伝承館は、福島第一原子力発電所から北へ約3キロメートル、JR常磐線双葉駅からは約2キロメートルという、津波による甚大な被害を受けた沿岸部に位置しています。建物の設計は渡部和生氏率いる惟建築計画と日本大学工学部空間デザイン研究室が、施工は福島県内の建設会社による共同企業体が担当しました。構造は鉄筋コンクリート造を基本としつつ、一部に鉄骨が用いられた3階建てです。屋上からは、除染によって生じた廃棄物の中間貯蔵施設や、震災遺構として保存された旧双葉南小学校など、周辺の被災状況と復興の取り組みを象徴する風景を望むことができます。また、周辺地域では復興祈念公園の整備も進められています。建物の設計においては、万が一の津波襲来時にも重要な収蔵品や展示品を守るため、電源設備を屋上に設置し、収蔵庫や展示室を2階以上に配置するといった配慮がなされています。
館内の展示は、導入となる「プロローグ」から始まり、「災害の始まり」「原子力発電所事故直後の対応」「県民の想い」「長期化する原子力災害の影響」「復興への挑戦」という、合計6つの展示室を順路に沿って巡る強制動線方式が採用されています。特にプロローグでは、床面を含めた7面のスクリーンに震災発生前、直後、そして復興の情景が約4分間にわたって映し出され、来館者が災害を「自分事」として捉えるきっかけとなるよう意図されています。この円形ホールは、実際に被災体験を語る「語り部」による口演の場としても活用されるように設計されています。展示全体のナレーションは、福島県出身の俳優である西田敏行氏が担当しています。
伝承館の管理運営は、公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構が行っています。この法人は、福島復興再生特別措置法の改正を受けて、福島・国際研究産業都市（イノベーション・コースト）構想を推進するため、2017年7月に福島県によって設立されました。運営には国の職員も関わっており、復興庁からの出向者も評議員として名を連ねています。
一方で、伝承館の展示内容や語り部による口演に関しては、開館当初から様々な課題や議論が指摘されています。特に、展示内容については、東日本大震災や福島第一原発事故における国、東京電力、そして福島県自身の責任や、そこから得られるべき教訓に関する記述が不十分であるという批判が多く寄せられました。具体的には、事故発生時に県が受け取ったSPEEDI（緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム）のデータを市町村に適切に伝えられず、結果的に住民を放射線量の高い方向へ避難させてしまった問題や、東京電力が震災前に試算されていた津波の可能性に対して対策を先送りした経緯などについて、十分な言及がないことが批判されました。福島大学の後藤忍准教授らは、展示内容が「教訓」よりも「復興への挑戦」を強調する傾向にあることを指摘し、過去の検証よりも前向きなアピールに偏っている可能性に警鐘を鳴らしました。また、開館までの展示案作成において、県庁内の担当課が原案を作成し、原子力安全対策課などの意向を受けて修正が行われた経緯や、展示点数が比較的少ないといった指摘もあります。こうした批判を受け、福島県は2021年3月、展示資料やパネルを約30点追加・変更すると発表し、内容の一部見直しを図りました。
また、語り部による口演の内容についても波紋が広がりました。開館直後、運営機構が語り部向けに配布したマニュアルに、「特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷等」を口演に含めないよう求める記載があったことが明らかになりました。研修会では、事前に原稿を提出し運営側の添削を受けることや、もし原稿にない批判を始めた場合には口演を中止したり、語り部登録を取り消す可能性があるといった説明も行われたとされます。これに対し、運営を所管する福島県の担当者は、国や東京電力なども「特定の団体」に含まれるとし、「第三者の批判を公的な施設で行うことはふさわしくない」との見解を示しました。この問題に関する一部報道は、伝承館が語り部の表現を検閲し、国などを批判する語り部を排除しようとしているかのような印象を与え、語り部自身に大きな心理的な影響を与えたという指摘も存在します。
伝承館の利用案内としては、開館時間は午前9時から午後5時まで（最終入館は午後4時30分）です。休館日は火曜日（ただし祝日の場合は開館し、翌平日を休館とする）および年末年始（12月29日から1月3日）となっています。入館料は、大人が600円、小中高校生が300円です。海外からの来場者向けには、英語、中国語、韓国語に対応した説明用のタブレット端末の貸し出しサービスも提供されています。施設に関する詳細情報や最新情報は、福島県および運営機構の公式ウェブサイトで確認することができます。
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