東明聖王

東明聖王（トンミョンソンワン）

東明聖王は、高句麗の初代王（在位：紀元前37年 - 紀元前19年）であり、東明王とも呼ばれます。『三国史記』によると、姓は高、諱は朱蒙または鄒牟、衆解とされています。また、『三国史記』新羅本紀では中牟王、『日本書紀』では仲牟王と記されています。高句麗の王族は、中国の伝説的な帝王である黄帝の子孫を自称していました。東明聖王は、夫余の王子たちとの対立から、卒本に亡命し、そこで高句麗を建国しました。

概要

朱蒙という名前は史書に記録されていますが、彼の生涯に関する確実な情報は非常に限られています。紀元前37年に高句麗を建国したという事実を除けば、彼の具体的な人物像はほとんどわかっていません。414年に建立された『好太王碑』には、朱蒙の出自に関する記述があり、彼が天帝の子であり、河伯の娘を母とする卵から生まれたとされています。1145年に成立した『三国史記』にも朱蒙に関する記録がありますが、これらの記録は神話的な要素が強く、史実として捉えるには注意が必要です。

建国神話

「東明」を始祖とする建国神話は、夫余、高句麗、百済に共通して見られます。これは、これらの国々が扶余語族に属していたこと、また、王の権威を天に帰属させると同時に、農業生産を左右する河神の権威を主張するという特徴を持っています。

高句麗の建国神話は、『三国史記』に基づいて語られています。百済の始祖である温祚の父も朱蒙であり、彼が北夫余から逃れてきた後、夫余王の娘と結婚し、沸流と温祚の二王子をもうけたとされています。しかし、朱蒙には北夫余にいたころに先妻との間に生まれた太子がいたため、二人の王子は身の危険を感じて南へ逃れ、最終的に温祚が百済を建国したとされています。

『三国史記』の分注には、朱蒙が卒本扶余に至った際に越郡の娘との間に二子をもうけたとする記事があり、井上秀雄は越郡を中国浙江省紹興地方と推測しています。このことから、中国沿海部から東渡した集団と、山東から遼東を経て朝鮮半島に到達した集団が、百済建国に関わった可能性が指摘されています。

天光受胎

朱蒙の母である柳花夫人は、河伯の娘であり、夫余の金蛙王と出会いました。柳花は、天帝の子を自称する解慕漱に誘われた後に帰れなくなり、金蛙王によって閉じ込められました。その際、日光が柳花を照らし、彼女は身ごもって大きな卵を産みました。金蛙王は卵を動物に捨てさせますが、いずれも食べず、鳥が卵を守りました。柳花が暖め続けると、卵から男の子が生まれ、それが朱蒙でした。

国人との対立

「朱蒙」という名前は、夫余の言葉で「弓の達人」を意味します。7歳になった朱蒙は、自ら弓を作り、百発百中の腕前を誇りました。夫余の人々は朱蒙を警戒し、排除を望みましたが、金蛙王は彼を庇いました。しかし、朱蒙が王を駄馬に乗せ、自ら駿馬を得たり、狩りで多くの獣を傷つけたりしたことから、再び暗殺計画が持ち上がりました。母の柳花から危険を告げられた朱蒙は、烏伊、摩離、陝父の3人の友と共に逃亡しました。

亡命と建国

朱蒙は、夫余から逃れ、淹水まで来たところで、川に向かって自らの出自を告げると、魚や鼈が橋を作り、川を渡ることができました。追手は川を渡ることができず、朱蒙は無事に逃げ延びました。その後、朱蒙は卒本川のほとりに到着し、紇升骨城を築いて都とし、紀元前37年に高句麗を建国しました。

王位の継承

紀元前19年、朱蒙の子である類利が、母と共に夫余から逃れてきました。朱蒙は類利を太子に立て、同年9月に40歳で亡くなりました。龍山に葬られ、東明聖王と諡されました。

建国の年

伝説では紀元前37年に建国とされていますが、実際には紀元前75年に玄菟郡が廃止された時に、高句麗侯として自立したと考えられています。紀元32年に高句麗侯は高句麗王に昇格しましたが、これは漢の朝廷からの称号であり、自称としては伝説通り紀元前37年に実質的に王であったと考えることも可能です。

夫余の建国伝説との比較

夫余の建国神話は、『後漢書』に見られます。高句麗の始祖伝説は、夫余の東明伝説に、河伯の外孫であること、卵生であることなどの要素が加わって形成されたと考えられています。また、東明伝説における弓術に優れていたという特徴は、「朱蒙」が「善射」を意味することと関連付けられています。

陵墓

東明聖王の陵墓は、平壌直轄市力浦区域にあり、東明王陵として知られています。元々は集安にあったものが、平壌遷都とともに移されました。陵墓は周囲に中門、祭祀堂、石像などが設けられ、内部には壁画が描かれています。

登場作品

東明聖王を題材にした作品には、ドラマ「朱蒙」や「百済の王 クンチョゴワン」などがあります。

これらの史料や伝説を通じて、東明聖王は高句麗の建国者としてだけでなく、古代の神話的な英雄としても語り継がれています。

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