東条英庵

東条英庵（とうじょう えいあん、文政4年（1821年）生 - 明治18年（1885年）7月17日没）は、江戸時代末期から明治にかけて活躍した医学者であり、兵学者でもあった人物です。現在の山口県にあたる長門国の出身で、本名を英、寅、後に礼蔵と称し、白玉や静軒といった号も用いました。父は、右田毛利家の家臣である東条永玄です。

若くして学問を志した英庵は、まず大坂に赴き、緒方洪庵が主宰する適塾で蘭学を学びました（弘化元年、1844年）。翌弘化2年（1845年）には江戸へ出て、当時名声が高かった蘭方医、伊東玄朴に師事し、さらなる知識を吸収しました。

故郷の長州藩に戻ると、その西洋学に関する知識が認められ、弘化4年（1847年）には藩の西洋書翻訳御用掛に任命されました。藩が積極的に西洋の知識を取り入れようとする中で、その役割を担ったのです。嘉永6年（1853年）には、藩医として正式に長州藩に仕えることとなりました。

安政4年（1857年）、英庵の活躍の場は幕府へと移ります。同年4月には、幕府が設立した教育研究機関である蕃書調所の教授職手伝として赴任し、西洋の学術研究や教育に携わりました。さらに同年11月には、長崎に設けられた軍艦操練所へ異動し、教授方として海軍に関する知識や技術の教育にあたりました。安政6年（1859年）1月には、正式に幕臣として迎え入れられます。元治元年（1864年）には、蕃書調所の後身である開成所で授職並となり、特にオランダ語の教育に尽力しました。

教育や研究の傍ら、英庵は多くの人々と交流がありました。安政2年（1855年）には、後の木戸孝允こと桂小五郎に対し、砲術家であり後に箱館戦争で新政府軍と戦うことになる中島三郎助を紹介したという逸話が残されています。

明治維新によって幕府が崩壊すると、英庵は徳川家と共に静岡へ移りました。静岡では、徳川家によって設立された静岡学問所の教授として、引き続き教育活動に従事し、新しい時代を担う人材の育成に貢献しました。

英庵は自らの知識を著書としても残しています。兵学に関するものとしては、『練率訓語』や、火器について論じた『電火銃小解』などがあります。これらは当時の日本の西洋兵学受容の一端を示す重要な資料と言えるでしょう。

東条英庵は、激動の時代にあって、医学と兵学という二つの分野で深い知識を持ち、長州藩や幕府、そして維新後の教育の場で重要な役割を果たしました。明治18年（1885年）に65歳でその生涯を終えるまで、日本の近代化に大きく貢献した人物です。

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