静岡学問所

静岡学問所は、明治時代初期に駿府藩（後の静岡藩）が設置・運営した藩学校です。1868年（明治元年）に開設され、1869年（明治2年）6月20日に「府中」が「静岡」と改称されるまでは、府中学問所や駿府学校などと呼ばれていました。この「静岡」の命名者は、後に静岡学問所頭となる向山黄村です。

設立の背景

江戸幕府崩壊後、明治新政府から駿府藩に移封された徳川家は、家中の立て直しを迫られていました。その一環として、教育改革を目的とし、静岡学問所が設立されました。人材を育成し、藩の復興を目指すという明確な目的がありました。

教育内容

設立にあたっては、昌平坂学問所や開成所、横浜語学所から教授や生徒、蔵書が移されました。漢学、英学、仏学、独学、蘭学といった幅広い分野に加え、国学、数学なども教えられました。1871年（明治4年）には、勝海舟の仲介でアメリカ人教授のエドワード・ウォーレン・クラークが招かれ、物理、化学、語学、化学実験も行われるようになりました。クラークは特に理科教育に力を入れ、当時の最先端の知識と技術を学生たちに伝えました。

集学所と伝習所

学問所には、学生のための校舎兼宿舎である集学所と、クラークのための校舎である伝習所が併設されていました。

集学所：1871年（明治4年）に大谷村大正寺に開かれ、漢学と剣道が中心でしたが、クラークによる理科実験も行われていました。静岡藩は集学所の設立に際し、資金援助を行いました。
伝習所：クラークの指導のもと、物理、化学、数学の講義が行われ、英語とフランス語で授業が展開されました。外国製の実験器具や薬品が多数導入され、爆薬に関する実験も行われました。

生徒

領内の武士、神官、僧侶、百姓町人、子弟や居候、召使いなど、身分を問わず学問に志がある者に入学が許可され、庶民にも身分に関わらず立身出世の道が開かれていました。これは、当時の教育制度としては画期的なものでした。

廃止

1872年（明治5年）には、中村正直をはじめとする学問所の教員や学生が明治政府に引き抜かれ、人材が流出しました。同年8月3日、文部省は学制頒布と同時に、従来の私塾などの廃止を命じました。その後、存続の可能性も示唆されましたが、最終的には8月中に廃止が決定されました。教官は解任され、学問所の資産は県に引き継がれました。

廃校後

学問所廃校後、伝習所は私塾として存続していましたが、1873年（明治6年）12月23日にクラークが開成学校に転任したことで、こちらも廃止されました。残された教師と生徒は集学所へ移りました。その後、集学所は人見寧によって賤機舎と改称され、私立英語学校として再出発しました。

学問所の蔵書の一部は、静岡師範学校を経て、静岡県立葵文庫（現在の静岡県立中央図書館）に引き継がれました。現在では、「葵文庫」としてデジタル化され、一般に公開されています。

学問所の主な人物

津田真道：学問所頭
向山黄村：学問所頭
中村正直：一等教授
人見寧：学問処大長（校長に相当）
岩橋教章：絵図方

明治2年の教授陣

学問所頭：向山黄村、津田眞一郎
御書學御師範：木村市左衛門
和學御用取扱：中坊陽之助
一等教授：中村敬助
二等教授：望月萬一郎、宮原壽三郞、長田銈之助
二等格學問御用取扱：杉亨二、東條禮藏、名村五八郞、外山捨八郎、田中周太郎
三等教授：長谷部甚彌、浦野鐃一郎、新藤熊之丞、越榮之助
四等教授:芹澤孝之助、三浦八郎左衛門、杉德八郎、湯淺源治
五等教授:布施金彌、富山譲助、岡田主稅、小田切鋼一郎
學問所組頭：木平五左衛門
同勤方：中従助
同調役：若泉八郎、中村小周次
同並：中山教之助
同下役：爲貝友輔、中島莊一郎、若林榮三郞、矢部彦兵衞、鵞山省内
救授世話心得：新見史雄、長瀧庄蔵、若林誠三郎、山菅鉢之丞、星野鐵太郎、清水源治右衞門

参考文献

飯田, 宏『静岡県英学史』講談社、1967年。
静岡県教育研修所／編編『静岡県教育史』静岡県教育史刊行会、1972年。
『ふるさと百話第8巻』静岡新聞社、1973年。
安本博／編編『静岡中心街誌』静岡中心街誌編集委員会、1974年。
静岡新聞社出版局／編編『静岡大百科事典』静岡新聞社、1978年。
山下, 太郎『明治の文明開化のさきがけ：静岡学問所と沼津兵学校の教授たち』北樹出版、1995年。ISBN 4-89384-500-4。
好川之範・近江幸雄／編編『箱館戦争銘々伝』上、新人物往来社、2007年。ISBN 978-4-404-03471-7。
『静岡の文化』第51号、静岡県文化財団、1997年11月1日。
『静岡の文化』第68号、静岡県文化財団、2002年2月25日。

関連項目

 沼津兵学校 - 駿府藩が沼津城内に開設した兵学校

外部リンク

葵文庫の概要　静岡学問所 - 静岡県立中央図書館
静岡県立中央図書館デジタルライブラリー「ふじのくにアーカイブ」

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