東武日光鋼索鉄道線

日光鋼索鉄道線の詳細

日光鋼索鉄道線は、かつて栃木県日光市の馬返駅から明智平駅を結んでいた、東武鉄道の鋼索鉄道（ケーブルカー）です。1932年に日光登山鉄道によって開業し、その後東武鉄道に買収されました。この路線は、始点の馬返駅で東武日光軌道線と接続し、終点の明智平駅で明智平ロープウェイと連絡していました。しかし、1970年にその歴史に幕を閉じました。

路線データ

路線距離（営業キロ）: 1.2km
水平延長: 1,184m
軌道中心間隔: 3,200mm
最小曲線半径: 300m
仰長: 1,263m
最急勾配: 500/1000
最小勾配: 250/1000
高低差: 428.1m
施行基面幅: 3,636m
軌間: 1,067mm
軌条重量: 26kg/m
枕木敷設間隔: 0.792m
道床構造: 全線コンクリート道床
駅数: 2駅（起終点駅を含む）
隧道: 第一隧道（170m）、第二隧道（60m）

歴史

1926年5月、馬返 - 明智平 - 中宮祠間の鉄道免許状が下付されました。翌年の1927年3月、日光登山鉄道株式会社が設立されました。1929年3月に工事施工の認可が得られましたが、昭和恐慌の影響で工事は一時中断されました。しかし、1931年11月に工事が再開され、1932年に馬返 - 明智平間1.2kmが開業しました。翌年には、明智平 - 展望台間に明智平ロープウェイが開業しています。

初代社長の植竹龍三郎は中宮祠電力を経営しており、1922年には中宮祠での鋼索鉄道の免許を得ていましたが、これを放棄し、新たに日光登山鉄道株式会社を設立しました。1928年には中宮祠電力の電気事業を日光登山鉄道に譲渡しましたが、1931年度には社長を辞任しました。1933年には本社所在地が東武鉄道と同じ場所に移転し、根津嘉一郎が取締役に就任しています。

1943年、不要不急線として架空索道線は撤去されましたが、鋼索線は観光だけでなく奥日光への実用的な交通手段でもあったため、地元からの陳情を受けて存続されました。1945年には、後の東武日光軌道線を運営していた日光軌道に合併されました。1947年には日光軌道が東武鉄道に吸収され、東武の運営となりました。1950年には架空索道線が復活しました。

終戦後、観光ブームが到来し、軌道線、鋼索線、架空索道線が連携して旅客輸送の主軸となりました。しかし、自動車時代の到来とともに、観光バスや自家用車の利用が増加し、1968年に日光軌道線が廃止されたため、路線バスとの接続が行われるようになりました。しかし、バスは奥日光へ直通するため、途中の馬返駅でケーブルカーに乗り換える理由がなくなり、利用客が激減し、1970年に廃線となりました。残った架空索道線は、1985年に日光交通に移管されました。

廃止後も、明智平駅の裏手には廃線跡の路盤やトンネルが残っています。また、馬返駅の駅名標は、長らく明智平駅に保存されていましたが、2018年に東武博物館に移されました。

年表

1922年（大正11年）4月20日：中宮祠電力に鉄道免許状下付。
1926年（大正15年）5月21日：中宮祠電力に対し起業廃止許可、日光登山電気鉄道に対し馬返 - 明智平 - 中宮祠間鉄道免許状下付。
1927年（昭和2年）2月4日：日光登山電気鉄道から日光登山鉄道への改称届出、3月7日：日光登山鉄道設立（本社東京）。
1928年（昭和3年）3月：中宮祠電力が電気事業を日光登山鉄道に譲渡。
1932年（昭和7年）8月24日：明智平 - 中宮祠間起業廃止許可、8月26日：自動車専用道路を開設、8月28日：馬返 - 明智平間開業。
1945年（昭和20年）2月28日：日光軌道が日光登山鉄道を合併。
1947年（昭和22年）6月1日：東武鉄道が日光軌道を合併。日光鋼索鉄道線となる。
1953年（昭和28年）旅客輸送量ひっ迫のため一時運休し、設備更新を行い輸送能力を約2倍に引き上げる。
1954年（昭和29年）10月1日：第一いろは坂開通。
1957年（昭和32年）10月20日：東武鉄道が日光に定期観光バスを運行開始。
1965年（昭和40年）10月6日：第二いろは坂・金精道路開通。
1970年（昭和45年）4月1日：馬返 - 明智平間廃止。

車両

「A」と「B」の2両が在籍し、初代と二代の2種が存在しました。

初代

開業に備えて汽車製造東京支店で半鋼製車体が製作されました。車体は台枠長10,200mm、車体幅2,550mmの半鋼製で、定員は80名（座席40人）、自重は9.6tでした。側面の客用扉は3箇所に設置され、その間に2枚1組の側窓が階段状に2組ずつ設置されていました。妻窓は3枚構成で、中央下部に前照灯が設置されていました。台車はスイス・テオドルベル社製で、自動空気ブレーキと手ブレーキを備える軸距5,000mmの2軸単台車でした。

2代目

1953年3月、汽車製造東京支店製の半鋼製車体と、日立製作所製の台車により更新されました。車体は台枠長14,160mm、車体幅2,600mmに拡大されました。窓配置は頂上側から1D(1)2D(1)2D(1)（D：客用扉、(1)：戸袋窓）で、幕板部の窓上辺を屋根の傾斜と合わせ、腰板部の窓下辺は水平面に合わせて、上辺が斜めになった台形の側窓が階段状に並んでいました。客用扉は750mm幅の片引き戸で、側窓幅は1,120mmでした。座席はロングシートです。車体の大型化により自重は9.95t、定員は120人（座席48人）となりました。車体傾斜の角度は36%でした。妻面は丸妻で、中央に1,000mm幅で下部が開閉する背の高い大窓が設置され、その両脇に600mm幅の二段上昇窓が配置されていました。台車は日立製作所設計のギーセライベルン式2軸単台車で、軸距7,000mmでした。制動装置はギーゼライベルン式で、手動制動機、自動制動機、および足踏制動機の三種を装備していました。

駅一覧

馬返駅（北緯36.738474度 東経139.527707度）
東武日光軌道線の終点でした。現在はバス停となっています。
明智平駅（北緯36.736923度 東経139.517746度）
明智平ロープウェイの始点です。

輸送・収支実績

兼業（乗合自動車業および電気事業）

日光登山鉄道時代には乗合自動車業と電気事業を兼営していました。

乗合自動車業: 明智平 - 中宮祠間（2.2km）の自動車専用道で営業運転していました。開業路線は保有車両5台（定員21人）でした。
電気事業: 1928年3月に中宮祠電力（1920年開業）より電気事業の譲渡を受け開業しました。供給地は上都賀郡日光町（日光字中宮祠）でした。その後、1941年2月に電気事業は東京電燈に譲渡しました。

関連項目

廃線
東武日光軌道線: 国鉄・東武日光駅からいろは坂の始まる馬返までを結んでいた軌道線（路面電車）。1968年廃止。
明智平ロープウェイ: 明智平駅と展望台駅を結ぶ索道路線。営業中。
中禅寺温泉ロープウェイ: 華厳滝付近の中禅寺温泉駅から海抜約1600mの茶ノ木平駅までを結んでいた索道。2003年廃止。

外部リンク

日光市立図書館：広報バックナンバー 昭和45年「さようならケーブルカー 惜しまれながら引退」 (PDF)
木村尚克「日光登山鉄道工事大要」『土木建築工事画報』第8巻11号、1932年（土木学会附属土木図書館より）

参考文献

寺山一昭／鉄道史料編集部「日光の電車(7)」、『鉄道史料 第59号』、鉄道史資料保存会、1990年、pp.43-48
東武博物館学芸課『なつかしの日光軌道』東武博物館、2010年、31頁、32頁。
K生「日光電車ほか」、『ROMANCE CAR』、東京鉄道同好会。
国立公文書館所蔵『軌道特許・東武鉄道・昭和27～31年』。
東武鉄道年史編纂事務局『東武鉄道六十五年史』東武鉄道、1964年。

もう一度検索