東洋的近世

『東洋的近世』の概要

宮崎市定の著作『東洋的近世』は、1950年に教育タイムス社から出版され、唐宋変革をテーマにした彼の代表作品とされています。この作品では、中国の歴史における近世の始まりを内藤湖南の理論を基盤に考察しています。特に、宋代から近世の流れを重要視しており、各章を通じて東洋の近世の特性を詳細に分析しています。

各章の概要

緒論 - 東洋近世史の意義

本書の緒論では、西洋史が古代・中世・近世に分類される一方、中国史は漢帝国を古代とし、その後の分裂時代を中世、宋代から近世と位置付けています。この視点から、東洋史の特異性と重要性を説明します。

第1章 - 世界と東洋との交通の概観

中国と西アジアの交通網について述べられています。長安は東西を結ぶ陸の要所であり、海上交通は広東を起点としていました。また、隋の大運河が長安と広東を結ぶことで、世界的な交通の一部となったことも強調されています。

第2章 - 中国近世の社会経済

中世から近世への移行に伴い、経済は自給自足から交換経済へと変化しました。農業生産の商業化や分業化が進み、従来の隷農であった部曲が自由な佃戸に変わる様子が描かれています。

第3章 - 中国近世の政治

五代末期には貴族が衰退し、宋代において独裁的な君主制が確立しました。官僚制度は科挙制度によって裏付けられ、最終的には天子に忠実な新たな貴族層である士大夫が誕生しました。

第4章 - 東洋近世の国民主義

遼、西夏、金それぞれが独自の文字を作成し、特有の国民主義が形成されます。対照的に、漢民族の中には攘夷思想が根強く残っており、国民主義がどのように発展していったかが論じられています。

第5章 - 近世の文化

唐朝以前の儒教の訓詁学から、宋代の自由な経書の解釈へと文化が進化します。文学面では口語文化の隆盛や水墨画の技法が、より感覚的で表現豊かな作品を生み出す一因となりました。

結論 - 東洋の近世と西洋の近世

中国の近世は西洋に先行しており、羅針盤や火薬、印刷術などの技術が東洋に起源を持つことが示されます。このように、時代的な進展を考える上で、宮崎の視点は非常に重視されます。

内藤湖南の影響

内藤湖南の「唐宋変革説」に強く影響を受けた宮崎は、自らの見解を「はしがき」で明示しています。本書の内容には内藤の理論が多く反映されており、特に緒論や2章の貨幣論が彼の考えを色濃く反映しています。

論争とその影響

1948年には、前田直典が中世の起源を宋と論じたことに対して、宮崎は反論を試みました。また、他の学者からの意見もあり、特に佃戸の位置づけについての議論は活発でした。宮崎は1971年に自らの見解を明確にするために「部曲から佃戸へ」を執筆し、議論に参加します。

評価

宮崎市定の『東洋的近世』は日本の東洋史学における重要なマイルストーンとされています。1940年代の初期に、単独の体系的な史観を持つ文献が不足していた中で、本書は新たな視点を提示しました。これにより、日本における東洋史学の発展に寄与したと評価されています。

本書は単行本としても何度か再出版され、教育現場や研究の場でも利用されています。

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