東萊府

東萊府について

東萊府（とうらいふ）は、現代の釜山広域市東萊区に設置された朝鮮王朝の地方行政機関です。この機関は単なる地方施行機関であるだけでなく、中世から近代初期にかけての朝鮮と日本の外交の重要な拠点でもありました。その正式名称は東萊都護府であり、その長官は東萊都護府使（従三品に相当）と称されます。しかし、一般には東萊府または東萊府使とおおよそ呼ばれています。

歴史的背景

まず、東萊の歴史を振り返ると、新羅時代に遡ります。この時期には、現在の釜山広域市に相当する地域の大部分が東萊郡に含まれていました。その後、高麗時代には東萊県と名前が変わり、朝鮮王朝の成立後も東萊県の名称がしばらく使用されました。しかし、1547年になるとこの地域は東萊都護府に昇格し、重要な行政機関へと変貌を遂げました。

文禄の役においては、東萊府は敵の攻撃目標となり、当時の指揮官であった東萊府使の宋象賢は降伏を拒否し、戦死してしまう結果となりました。この戦いにより一時的に防衛の失敗が問われ、東萊県に降格された経緯がありますが、1599年に再び東萊都護府が設置されました。

日朝外交の中心地

朝鮮時代の後期、いわゆる江戸時代においては、東萊府は釜山に位置する倭館を管轄し、対馬藩との交流にあたる場としての役割を果たしていました。この頃、日本と朝鮮の間に常設の外交機関が存在しなかったため、日本海で漂流した人々の送還や領土問題（特に竹島一件）に関する交渉は、主にこの東萊府と対馬藩を介して行われていました。

明治政府が設立された後も東萊府は、日朝の外交における重要な舞台であり続けました。しかし、1868年に東萊府使が対馬藩を通じて受け取った国書を拒否すると、交渉は難航し始めました。このことが、外交に関連する書状の問題（書契問題）へと繋がります。1872年には、日本外務省が倭館を公使館として取り扱う動きがあり、進展しない外交状況に対して1875年には武力による開国強制が実施（江華島事件）され、さらに1876年には日朝修好条規が結ばれ、漢城に公使が置かれることとなるのです。これにより、東萊府は外交の中心的な役割を終えることとなりました。

近代行政区画の変遷

1895年、中央政府による新たな地方行政体制である二十三府制が施行されました。この制度では、旧来の都護府や府、県と呼ばれる組織が改められ、一様に郡という呼称に統一されました。それに伴い、東萊都護府の管轄地域は東萊郡に再編成されました。

さらに、東萊郡を含む10の郡を管轄する広域行政区画として新たに東萊府が設置され、長官は東萊観察使に務めていました。しかし、この二十三府制は一年後に廃止され、1896年には東萊郡が東萊府（長官は東萊府尹）となり、慶尚南道に属することになりました。

その後、1903年には再び東萊府が東萊郡に降格されましたが、1905年に再度東萊府の名称に戻り、1910年10月1日には釜山府および東萊郡となりました。

年表

• - 757年: 統一新羅により東萊郡が設けられる。
• - 1018年: 東萊県となる。
• - 1547年: 東萊都護府に昇格。
• - 1592年: 文禄・慶長の役、東萊城の戦い、東萊県に降格。
• - 1599年: 東萊都護府が再設置。
• - 1609年: 己酉約条が締結される。
• - 1692年: 竹島一件が発生。
• - 1868年: 対馬藩経由の国書を受け取ることを拒否。
• - 1872年: 倭館が日本外務省に接収される。
• - 1876年: 日朝修好条規が締結。
• - 1895年: 二十三府制が施行され、東萊府と東萊郡が設置される。
• - 1896年: 慶尚南道の東萊府が設立される。
• - 1903年: 東萊府が東萊郡に降格。
• - 1905年: 東萊郡が東萊府として復活。
• - 1910年: 東萊府が釜山府・東萊郡に変わる。

このように、東萊府は朝鮮王朝から近代にかけての重要な政治的歴史を映し出す存在であり、その役割は時代と共に変化しつつも、地域の外交や行政に大きな影響を及ぼしてきました。

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