東貞蔵

東貞蔵：白い巨塔の良心と葛藤

東貞蔵は、山田洋次監督作品『白い巨塔』シリーズにおける主要登場人物の一人です。代々続く医学者の家に生まれ、東都大学医学部を卒業後、呼吸器外科の権威として名を馳せました。浪速大学医学部第一外科教授に就任するも、そのキャリアは、かつて東都大学で教授の座を逃した挫折感と、教え子である財前五郎との複雑な関係によって彩られています。

人物像：高潔な学者と権力闘争の狭間

東は、学究肌で穏やかな人物として描かれています。手術の腕は財前五郎には劣るものの、高い倫理観と教授としての矜持を備えています。しかし、その高潔さは、大学における権力闘争という現実の中で、様々な葛藤を生むことになります。特に、傲慢な性格の財前とは、確執を深めていくことになります。東は、財前の才能を認めながらも、その傲慢さや、自分に対する配慮の欠如を許せず、関係は悪化の一途を辿ります。

財前五郎との確執：師弟関係の崩壊

東は、財前と葛西の師にあたり、後継者選びにおいて大きな対立を生むことになります。財前を後継者として推薦せず、温和な性格の菊川昇を推すことを決定します。この決定は、財前を排除し、娘婿である菊川を通して、退官後も第一外科に影響力を及ぼしたいという、東の思惑も反映しています。

後継者選考においては、今津教授など周囲への働きかけも行いますが、最終的には財前が勝利します。東の緻密な計画は、複雑に絡み合う大学内の利害関係の前に、挫折を味わうことになります。

裁判への関与：責任と葛藤

財前が訴追されると、東は、里見脩二や関口仁からの依頼を受け、一審では東北大学名誉教授の一丸直文、二審では関東医科大学助教授の正木徹を鑑定医として紹介します。しかし、ドラマ版によって、東自身の裁判への関与の度合いは異なっています。1978年版では、妻の反対もあり裁判には関与しませんでした。2003年版では、正木の辞退を受け、自ら出廷を決意するなど、その描写は大きく異なります。

財前五郎の手術：怨讐を越えた医師としての使命

財前が胃癌（2003年版では肺癌、2019年版では膵臓癌）で倒れると、東は、かつての怨讐を乗り越え、手術を執刀します。しかし、癌の転移が既に進んでおり、手術による切除は不可能でした。それでも東は、医師としての使命感から、最善を尽くします。財前の最期を看取るシーンは、東の複雑な心情、そして医師としての責任感、そして人間としての弱さを浮き彫りにしています。

ドラマ版における東貞蔵

東貞蔵を演じた俳優陣は、東野英治郎、山形勲、中村伸郎、二谷英明、石坂浩二、寺尾聰と、錚々たる顔ぶれです。それぞれの俳優が、東の複雑な内面を異なる解釈で表現し、作品に深みを与えています。

まとめ

東貞蔵は、『白い巨塔』において、医学界の権力闘争と、師弟関係の崩壊、そして医師としての倫理という複雑なテーマを体現する重要な存在です。彼の行動は、常に良心と現実の狭間で揺れ動き、その葛藤は、作品全体に重厚なドラマ性を与えています。高潔な学者でありながら、権力闘争に巻き込まれ、苦悩する東の姿は、現代社会においても、多くの示唆を与えてくれるでしょう。

もう一度検索