杵屋正次郎

杵屋 正次郎

杵屋正次郎は、江戸時代より続く長唄三味線方の由緒ある名跡です。代々の墓所は大林寺にあります。

初代 杵屋正次郎

生没年は不詳ですが、享和3年11月3日（1803年12月16日）に没しました。その出自は異色で、江戸浅草奥山の的屋や道端で、独楽回しの名手であった松井源水の伴奏を務めていたところを、二代目杵屋六三郎に見出され、その門下に入ったと伝えられています。歌舞伎の舞台に初めてその名が確認できるのは、1768年の森田座の顔見世番付においてです。その後、1775年の冬には立三味線へと昇進し、中心的演奏家としての地位を確立しました。俳号は林鷲と称しました。

作曲家としても類まれな才能を発揮し、『仲蔵狂乱』をはじめとする数多くの名曲を生み出しました。今日に伝わる彼の作品には、『色見草月盃（物思うの紅葉狩）』、『仲蔵狂乱』、『羽根の禿』、『白酒売』、『高砂丹前』、『菊寿の草摺』、『対面春駒』、『手習子』、『花車岩井扇』、『鬼次拍子舞』、『木賊刈』、『三重霞嬉敷顔鳥』などがあります。これらの曲は、長唄の重要なレパートリーとして今も演奏されています。

二代目 杵屋正次郎

生没年は不詳で、文政3年（1820年）に亡くなりました。初代杵屋正次郎の実の息子です。最初は杵屋彦次郎として活動し、1797年には森田座の顔見世番付に初めて登場しています。1804年の冬には河原崎座で立三味線となり、翌年には中村座にて二代目杵屋正次郎を襲名しました。代表的な作品として『舌出三番叟』を残しています。また、今日に伝わる曲として、『舞扇』、『むらさき』、『みめより』、『汐汲』、『室咲松竹梅』、『老女』、『舌出三番叟』、『紅葉袖名残錦絵』、『犬神』、『狂乱左当升』、『新禿』、『新獅子』などがあります。

三代目 杵屋正次郎

文政9年（1826年）に生まれ、明治28年（1895年）10月31日に逝去しました（没年を1896年とする資料もあります）。幼名を彦之助といい、実父は二代目杵屋正次郎の門下であった杵屋正三郎です。1843年に二代目杵屋彦次郎を名乗り、江戸市村座で初舞台を踏みました。その後、1855年に三代目杵屋正次郎を襲名。1878年頃からは「正治郎」と表記を改めています。

彼は九代目市川團十郎から厚い信頼を得て、その歌舞伎における多くの舞台のために作曲を手がけました。代表作には、九代目團十郎の演目に合わせて作られた『土蜘』、『紅葉狩』、『鏡獅子』など、現代でも頻繁に演奏される傑作が含まれます。また、西洋音楽にも関心を持ち、ピアノなどの洋楽器を長唄に取り入れたり、フーガ形式を用いたりするなど、従来の長唄の枠を超えた革新的な試みを行ったことでも知られています。

四代目 杵屋正次郎

明治3年（1870年）頃に生まれ、昭和15年（1940年）2月12日に亡くなりました。本名は大橋新太郎といい、三代目杵屋正次郎の実の息子です。1886年に三代目杵屋彦次郎を襲名し、その後1902年10月に開催された第3回長唄研精会に出演する際に、四代目杵屋正次郎を襲名しました。

五代目 杵屋正次郎

この名跡を継いだ人物は、後に四代目杵屋栄蔵として活躍しました。詳しい活動内容は主に四代目杵屋栄蔵の項目で扱われます。

六代目 杵屋正次郎

昭和10年（1935年）1月25日に生まれ、平成23年（2011年）7月1日に逝去しました。享年76。本名は古茂田定雄といいます。三代目杵屋栄蔵の門下で研鑽を積み、その後杵屋栄美彦の門下となり、栄慎次として活動しました。1981年に六代目杵屋正次郎を襲名しています。作曲活動も行い、『風流しのばず』など数曲を残しました。2011年7月1日、心不全のため亡くなりました。

杵屋正次郎の名跡は、江戸時代から現代に至るまで、長唄三味線方の重要な系譜として、数々の名演奏家と作品を生み出し、日本の伝統音楽及び歌舞伎の世界に多大な貢献をしてきました。代々受け継がれています。初代の異色の才能、三代目の革新的な試みなど、各代がそれぞれの時代において長唄の発展に寄与しました。

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