松室孝良

松室孝良（まつむろ たかよし）は、1886年（明治19年）4月23日に生まれ、1969年（昭和44年）12月6日に没した、日本の陸軍軍人です。最終階級は陸軍少将でした。

経歴

京都府出身の松室孝良は、松室普勧の長男として生を受けました。1907年（明治40年）5月に陸軍士官学校（19期）を卒業し、同年12月には陸軍騎兵少尉に任官され、騎兵第4連隊に配属されました。その後、1918年（大正9年）11月に陸軍大学校（32期）を卒業し、騎兵第7連隊中隊長に就任しました。

1921年（大正10年）10月には参謀本部付勤務となり、参謀本部員を経て、1923年（大正12年）4月から1925年（大正14年）5月まで参謀本部付（支那研究員、張家口・北京駐在）として中国に滞在しました。この間、1923年8月には騎兵少佐に昇進しています。1925年5月には騎兵第1連隊付に転じ、同年8月には馮玉祥顧問として再び中国へ派遣され、1926年（大正15年）11月に帰国しました。1927年（昭和2年）7月には騎兵第1連隊付となり、同年12月には騎兵中佐に進級しました。その後、参謀本部員を経て、1928年（昭和3年）6月から1929年（昭和4年）8月まで、再び参謀本部付として馮玉祥顧問を務めました。1929年11月には陸軍騎兵学校教官に就任しています。1931年（昭和6年）8月には騎兵大佐に昇進し、騎兵第1連隊長となりました。

1933年（昭和8年）1月には関東軍司令部付（チチハル特務機関長）に転じ、その後、熱河特務機関長、騎兵学校教官、第7師団参謀長を歴任しました。1936年（昭和11年）3月には陸軍少将に進級し、支那駐屯軍司令部付（北平特務機関長）となりました。同年12月には騎兵第4旅団長に転じましたが、1937年（昭和12年）8月に待命となり、同月、予備役に編入されました。

予備役編入後も、1937年12月から1938年（昭和13年）5月まで上海で政権工作に携わりました。その後、明治大学指導局長（1938年10月-1939年4月）、大民会顧問（1939年10月-1940年11月）、東京府労務報国会会長（1941年12月-1943年2月）などの役職を歴任し、さらに大日本回教協会総務部長にも就任しました。墓所は多磨霊園にあります。

侮辱事件

1938年（昭和13年）11月10日、松室孝良が明治大学指導局長在任中に、大学を侮辱する発言をしたことで、学内で大きな騒動が起こりました。この事件は「舌禍事件」として知られています。

当時、明治大学記念館で「国民精神作興ニ関スル勅語捧読式」が挙行され、総長木下友三郎が詔勅を奉読した後、指導局長であった松室孝良が訓示を行いました。しかし、その訓示の内容が教授たちの反感を買いました。松室は次のような発言をしたとされています。

「此ノ学校ノ何処ニ学問ノ蘊奥ガアリマスカ、斯様ナモノハ無イデハアリマセヌカ」
「此ノ学校ノ学生ハダラシガナイ、教職員モダラシガナイ、教授諸氏ハ宜シク責任ヲ感ジテ態度ヲ改ムベキデアル」
「明治大学ナドハ迚モ大学トシテノ資格ハ無イノデアリマス」

学生たちの前で面目を潰された教授たちは、各学部・専門部で教授会を開き、文芸科の岸田国士が「学生の前において指導局長に陳謝せしめよ」と訴えるなど、学内の混乱は数日に及びました。しかし、松室は「授業ヲ為サザレバ部長ヲ辞メサセ、各教授ハ之ニ応ゼザレバ片端ヨリ首ニスベシ」と豪語し、謝罪も発言撤回もしませんでした。

最終的に、木下総長が「本件の全責任は総長に在り指導局長を相手にする必要なし」として、松室の代わりに教授会で謝罪することで、この騒動はうやむやにされました。

翌年の4月19日、松室は指導局長を依願退職して明大を去りました。後任の局長は桑名照弐が務めました。松室の退職理由は明確ではありませんが、前年からの教職員との対立や、専門部興亜科（新設）の指導監就任案が理事会で否決されたことなどが原因ではないかと推測されています。

参考文献

秦郁彦編『日本陸海軍総合事典』第2版、東京大学出版会、2005年。
福川秀樹『日本陸軍将官辞典』芙蓉書房出版、2001年。
外山操編『陸海軍将官人事総覧 陸軍篇』芙蓉書房出版、1981年。
明治大学文学部五十年史編纂委員会『明治大学文学部五十年史』明治大学文学部、1984年。
明治大学百年史編纂委員会『明治大学百年史』第二巻 史料編Ⅱ、学校法人明治大学、1988年。
* 明治大学百年史編纂委員会『明治大学百年史』第四巻 通史編Ⅱ、学校法人明治大学、1994年。

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