松岡龍雄

松岡 龍雄

松岡 龍雄（まつおか たつお）は、1893年（明治26年）4月18日に茨城県に生を受け、1989年（平成元年）12月31日にその生涯を終えた、日本の武術家、医師、そして政治家です。神道楊心流柔術の第三世宗家を務め、後には下館市長としても活躍しました。

生い立ちと武術への道

松岡家は、代々医術をもって黒田藩に仕えてきた家系でした。特に、祖父にあたる松岡克之助は、神道揚心流柔術の創始者として歴史に名を残しています。祖父が死去したのは、龍雄がわずか6歳の時でしたが、生前、祖父は師範代であった猪瀬元吉周行を枕元に呼び寄せ、自身の流派である神道楊心流柔術を幼い孫の龍雄に教授するよう託したと伝えられています。この祖父の遺志を受け、龍雄は8歳という若さで神道楊心流柔術の門を叩き、猪瀬元吉周行から本格的な指導を受けることになります。

修行は順調に進み、明治42年（1909年）5月には切紙免許を、明治45年（1912年）5月には目録免許を授けられました。そして、大正6年（1917年）には免許皆伝に至り、神道揚心流の第三世宗家として流派を継承しました。

講道館柔道と古武術

神道楊心流に加え、松岡龍雄は講道館柔道にもその足跡を残しています。大正3年（1914年）5月15日、山崎亘の紹介によって講道館に入門しました。講道館への入門は、自身の武術の実力を試したいという思いからでした。当時すでに神道楊心流の目録免許を取得していたにもかかわらず、彼は無級の白帯から稽古を始めましたが、その実力はすぐに認められ、短期間のうちに審査を経て特進で三段を許されました。その後も昇段を重ね、昭和8年（1933年）6月25日に四段、昭和15年（1940年）8月15日に五段、昭和31年（1956年）1月8日に六段となりました。講道館における最終的な段位は七段でした。彼の得意技は小内刈、移腰、横捨身、真捨身などで相手を崩し、素早く絞め技に繋げる展開でした。神道揚心流で培った体の運用や技法は、講道館柔道においても大いに活かされ、講道館の稽古では五段クラスの相手とも遜色なく技を競うことができたといいます。

また、彼は神道楊心流柔術だけでなく、気楽流と浅山一伝古流においても高い境地に達していました。気楽流は鈴木嘉八義光より学び、大正7年（1918年）に目録免許、大正10年（1921年）5月には免許皆伝を得ています。さらに、浅山一伝古流（浅山大成流）は猿橋東太郎光徳に師事し、大正10年（1921年）2月に目録免許、昭和2年（1927年）5月に免許皆伝を授かっています。多種の武術を極めた、稀有な武術家でした。

彼は武術振興にも貢献し、昭和6年（1931年）8月には大日本武徳会茨城県支部下館支所の柔道教師に就任。昭和7年（1932年）には大日本武徳会より柔道精練証を受け、昭和8年（1933年）には柔道教士号を授与されています。大日本武徳会栃木支部審査員や茨城県柔道有段者会審査員なども務め、武道の普及・発展に尽力しました。

医師、そして政治家として

武術の道を歩む一方で、松岡龍雄は医学も修めました。大正2年（1913年）、上京して頭山満の自宅に寄宿しながら日本医学校講習科で医学を学びました。大正9年（1920年）には第一回柔道整復術試験に合格し、昭和2年（1923年）には茨城県真壁郡下館町に松岡医院を開設し、地域医療に貢献しました。

彼はまた、政治家としてもその手腕を発揮します。昭和17年（1942年）には下館町議会議員に当選。翌昭和18年（1943年）5月には下館町長に就任しました。真壁郡町村会長や下館町農業会長といった要職も歴任しましたが、昭和21年（1946年）に公職追放の対象となります。

公職追放中は医業を続ける傍ら、実業界にも足を踏み入れました。下妻無尽（後の東陽相互銀行）に招請され、昭和25年（1950年）には取締役に就任。その後、昭和31年（1956年）11月15日に行われた下館市長選挙に当選し、再び政治の舞台に戻りました。昭和33年（1958年）には経営を巡る内部の対立から東陽相互銀行の社長に就任しましたが、後継者として元土浦町長だった萩谷徳一を招き、自身は会長に退きました。下館市長としては、この当選以降四期にわたり市政を担い、昭和47年（1972年）11月14日の任期満了まで務め上げました。しかし、同年7月6日に萩谷社長が急死したことに伴い、同年9月には再度東陽相互銀行の社長となり、昭和49年（1974年）に退任しています。

松岡龍雄は、武術家として複数の流派で免許皆伝の域に達し、医療においては地域に根ざした活動を行い、さらに政治家・実業家として地方自治や経済の発展に貢献するなど、文字通り多才な生涯を送った人物でした。

もう一度検索