松平乗命

松平乗命：激動の幕末を生き抜いた岩村藩最後の藩主

松平乗命は、江戸時代後期に美濃国岩村藩の第8代、そして最後の藩主として活躍した大名です。乗政流大給松平家の8代当主であり、従五位下・能登守に叙せられ、明治維新後には子爵の位を得ました。

大政奉還以前の歩み

嘉永元年（1848年）、先代藩主・松平乗喬の次男として誕生した乗命は、安政2年（1855年）、わずか8歳で家督を継ぎ、岩村藩主となりました。幼少期から藩主としての重責を担った彼は、万延元年（1861年）には従五位下・能登守に叙任され、その後、元治元年（1864年）には大坂加番、慶応2年（1866年）には第二次長州征伐に参加するなど、幕府の要職を歴任しました。さらに慶応3年（1867年）には奏者番、陸軍奉行にも任じられ、幕府の中枢で活躍しました。しかし、時代の大きな転換期において、乗命は慶応4年（1868年）2月、新政府に恭順するという決断を下しました。

大政奉還と藩論の二分

慶応3年10月14日（1867年11月9日）、徳川慶喜が大政奉還を行うと、朝廷は幕臣や大名に対し上京を命じました。当時、江戸にいた乗命は、佐幕派であった家老の澤井市郎兵衛らの反対に遭いました。澤井は、徳川家との長年の縁故を重視し、徳川家と運命を共にするべきだと主張、藩論は二分しました。勤王論を唱えた藩士たちは蟄居や幽閉を強いられ、藩内は緊張に包まれました。最終的には、謹慎中であった岩松傳藏が京都の情勢視察を行い、その報告を受けて藩論は勤王へと傾き、乗命の上京が決まりました。佐幕派の澤井とその息子は、藩主の上京阻止を企てたとして蟄居を命じられましたが、小田原宿で脱走、幕府側に加わって各地で戦いました。

新政府への帰順とその後

慶応4年（1868年）1月、官軍が京都を出発し江戸へ向かうと、岩村藩は官軍に帰順、征東兵を出して東山鎮撫使に属しました。丹羽瀬市左衛門は、乗命が徳川慶喜に仕えていたことを朝廷に陳謝し、免罪を請いました。その後、岩村藩は信州、甲府の防衛にあたり、明治元年（1868年）8月には乗命自身も上京、京都御所で忠誠を誓い、鞍馬口の警備を任されました。明治元年12月には領地の一部を静岡藩に譲り渡す一方、新たな領地を獲得するなど、領地調整も行われました。明治2年（1869年）の版籍奉還により岩村知藩事となりましたが、明治4年（1871年）の廃藩置県によって知藩事を免官されました。

維新後と晩年

明治17年（1884年）の華族令で子爵に叙せられた乗命は、その後も位階を上げ、明治20年（1887年）には正五位、明治25年（1892年）には従四位、さらに従三位に叙せられました。明治38年（1905年）11月15日、東京で58歳で亡くなり、神葬で送られました。

主要な藩士

乗命を支えた藩士たちは、家老、用人、大目付、郡奉行、山水奉行、代官など様々な職務に就き、藩政運営に貢献しました。彼らの人材も、岩村藩の歴史において重要な要素です。 乗命の生涯は、激動の幕末から明治維新、そして近代日本への移行期を象徴するものであり、その功績は後世に語り継がれています。 岩村藩の存続と発展に尽力した乗命と藩士たちの活躍は、日本の歴史における重要な一側面を担っていると言えるでしょう。

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