松平忠栄 (尼崎藩主)

松平忠栄

松平忠栄（まつだいら ただなが/ただなか）は、江戸時代後期に尼崎藩の第6代藩主を務めた大名であり、桜井松平家15代当主にあたります。

生涯

生い立ち

文化元年（1804年）12月13日、尼崎藩3代藩主・松平忠告の八男として尼崎に生まれました。母は側室の澤田寿女（すめ）。忠告には22人の子がいましたが、忠栄はその末子でした。

文化2年（1805年）12月10日、父・忠告が江戸で亡くなります。文化9年（1812年）3月20日には、忠栄自身も江戸へ移り住んでいます。

文政12年（1829年）8月27日、忠栄の甥にあたる5代藩主・忠誨（27歳）が在国中に急逝。忠誨には跡継ぎがおらず、弟の忠顕は心の病を患っていたため、叔父である忠栄（26歳）が家督を継ぐこととなり、10月2日に相続が認められました。

尼崎藩主

藩主となった忠栄は、藩政改革に積極的に取り組みました。

藩政改革

当時の尼崎藩は厳しい財政難に直面しており、その再建が急務でした。そこで忠栄は、天保5年（1834年）に西本願寺や各藩の財政再建で実績のあった大坂の商人、大根屋小右衛門（石田敬起・知白斎）を登用し、財政再建を試みました。さらに弘化2年（1845年）には、伊丹の酒造家である小西新右衛門と笹屋勘左衛門を通して借財整理を図っています。

また、天保10年（1839年）には鶏卵の専売制を導入。藩士の減給や領民への御用金賦課など、厳しい措置も行いましたが、領民の意見を聴取するための目安箱を尼崎城西大手門に設置したり、近習を「市郷見廻り」に任じて領民の申し出を受け付けるなど、不満が噴出しないよう配慮も怠りませんでした。

しかし、安政6年（1859年）時点で藩の借銀は8,290貫に達し、これは歳入の2.8倍に相当する額でした。

国内外情勢への対応

天保8年（1837年）に大塩平八郎の乱が起こると、忠栄は土井利位に従って鎮圧に貢献しました。また、天保13年（1842年）には大砲7門を鋳造しています。

嘉永6年（1853年）のペリー来航に際し、幕府から意見を求められた際には、鎖国を堅持するよう提言。翌年にロシア船が大坂に現れると、大坂の警備を担当しました。

隠居

文久元年（1861年）8月6日、忠栄は病気を理由に58歳で隠居し、家督を六男・忠興に譲りました。忠栄には7人の男子がいましたが、上の5人は夭折していました。この唐突な隠居の背景には、厳しい藩政改革に対する藩士や領民の疲弊があったとも言われており、隠居に追い込まれたとの見方もあります。しかし、隠居後も藩政に一定の影響力を及ぼしました。

明治2年（1869年）9月7日、尼崎で死去。享年66歳でした。

人物

忠栄は学問を好んだ人物であり、徂徠学派の中谷雲漢を招聘して聴講していました。著書として『胎厥編』（いけつへん）や『喫茶問答』があります。

系譜

父：松平忠告（1742-1806）
母：澤田寿女（瓊珠院）
養父：松平忠誨
正室：小笠原忠固長女
継室：洵子 - 松平宗発娘
六男：松平忠興（1848-1895）

生母不明の子女として、万里小路通房後室がいます。

母・澤田寿女の生家である澤田家は、摂津国西成郡大道村（現在の大阪市東淀川区）の郷士で、広大な土地を所有し、代々左平太を襲名していました。大坂の陣の際に徳川家康の道案内をしたという由緒から士分の格式となり、大名家とも交流がありました。

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