土井利位

土井利位：雪の結晶を愛した「雪の殿様」

土井利位（どい としつら）は、江戸時代後期に活躍した大名で、下総古河藩の第7代藩主であり、江戸幕府の老中首座を務めた人物です。彼は、その政治手腕だけでなく、雪の結晶研究というユニークな分野でも名を馳せ、「雪の殿様」として広く知られています。

生涯

家督相続

寛政元年（1789年）5月22日、土井利位は三河刈谷藩主・土井利徳の四男として生まれました。本家の古河藩主・土井利厚に実子がなかったため、文化10年（1813年）にその養子となります。同年には将軍・徳川家斉に御目見し、従五位下主膳正に叙任されました。文政5年（1822年）に養父が亡くなると家督を継ぎ、官名を大炊頭に改めました。

幕政への参与

文政6年（1823年）に奏者番、文政8年（1825年）には寺社奉行を兼任し、幕府政治に関与を始めます。一時的に寺社奉行を辞任しますが、文政13年（1830年）に再び兼任。天保5年（1834年）には大坂城代に昇進し、従四位下に叙されました。大坂城代在任中には、大塩平八郎の乱が発生し、その鎮圧に尽力します。この功績により、天保8年（1837年）には京都所司代に抜擢され、侍従に任官しました。その後、天保9年（1838年）に西丸老中、翌年には本丸老中に任命されるなど、順調に幕府内での地位を確立していきます。

藩政改革と老中首座

藩主としても、利位は天保2年（1831年）から家老に鷹見泉石を登用し、藩政改革を積極的に進めました。天保の改革では、水野忠邦に協力し改革に参与しますが、上知令には自身の所領が関係していたため反対します。その後、水野忠邦を失脚させ、自らが老中首座に就任。財政再建のため倹約令を継続する一方で、武士道の引き締めや、百姓や旗本の救済策に尽力しました。老中首座としての期間は短かったものの、米の先物取引などによって一時的に幕府財政を黒字化させるなど、その手腕を発揮しました。しかし、江戸城本丸の火災による再建資金調達の失敗や、外国問題の紛糾により、水野忠邦が老中首座に復帰。利位は報復を恐れ、老中を辞任することとなりました。

隠居と最期

嘉永元年（1848年）に家督を養子の利亨に譲って隠居し、官名を織部正に改めます。その直後、同年7月2日に60歳でこの世を去りました。

人物・逸話

どんどろ大師

大阪の鏡如庵（現在の善福寺）は、通称「どんどろ大師」と呼ばれています。この由来は、大坂城代を務めていた利位が、鏡如庵に祀られている弘法大師を深く信仰し、度々参拝していたことから、「土井殿大師」と呼ばれ、それが転じて「どんどろ大師」になったとされています。現在、境内には土井氏と刻まれた五輪塔が残っています。

雪の結晶研究

利位は、日本で初めて雪の結晶を顕微鏡で観察した人物としても知られています。家老の鷹見泉石の協力を得て、20年にもわたり雪の結晶を観察し、「雪華」と命名しました。その観察結果は『雪華図説』『続雪華図説』として出版され、14か条の雪の効能と86種の雪の結晶図が収録されています。これらの図はテキスタイルパターンとして取り入れられ、雪華模様の衣装が流行しました。その為、利位は庶民から「雪の殿様」として愛されました。また、雪華模様の別名である「大炊模様」は、利位の官名に由来します。彼の所領であった茨城県古河市では、現在でも小学校の校章や歩道に雪華模様が使われています。

年譜

寛政元年（1789年）：三河国刈谷にて、刈谷土井家の土井利徳の四男として生まれる。
文化10年（1813年）：古河藩主・土井利厚の養子となる。
文政5年（1822年）：養父の死去に伴い、古河藩主となる。
文政8年（1825年）：寺社奉行に就任（1829年に退任、1830年から1834年に再任）。
天保5年（1834年）：大坂城代に就任。
天保8年（1837年）：京都所司代に就任。
天保9年（1838年）：江戸城西之丸老中に就任。
天保10年（1839年）：老中に就任。
天保15年（1844年）：老中を辞任。
嘉永元年（1848年）：死去。

系譜

実父：土井利徳
養父：土井利厚
正室：於鏡の方（松廉院、土井利厚の養女、松平忠告の娘）
子女：心誠院（土井利則正室、土井利亨の養女）
養子：土井利順（戸田氏庸の次男）、土井利則（酒井忠蓋の次男）

著書

『雪華図説』（天保3年、1832年）
『続雪華図説』（天保11年、1840年）

登場作品

小説

西條奈加『六花落々』（祥伝社、2014年）
鷹井伶 『雪の殿様』（白泉社、2015年）

映画

『十三人の刺客』（1963年、東映、演：丹波哲郎）
『十三人の刺客』（2010年、「十三人の刺客」製作委員会、演：平幹二朗）

テレビドラマ

『遠山の金さん捕物帳』（1970年 - 1973年、NET・東映、演：河上一夫）
『十三人の刺客』（1990年、フジテレビ・仕事・映像京都、演：丹波哲郎）
『よろずや平四郎活人剣』（2007年、テレビ東京、演：森下哲夫）
『十三人の刺客』（2020年、NHK BSプレミアム、演：里見浩太朗）

参考文献

早川和見『シリーズ藩物語 古河藩』
後藤敦史『阿部正弘 挙国体制で黒船来航に立ち向かった老中』

外部リンク

こがナビ
* 古河歴史博物館（過去の企画展に『雪華図説展』あり）

土井利位は、その多才な活躍と、雪の結晶への深い愛情から、時代を超えて多くの人々に愛される人物です。彼の生涯と業績は、日本の歴史と文化を語る上で欠かせないものと言えるでしょう。

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