松平斉典

松平 斉典の生涯とその功績

松平斉典（まつだいら なりつね）は、江戸時代後期に活躍した名君の一人であり、武蔵国川越藩の4代藩主です。彼は2代藩主・松平直恒の四男として生を受け、兄である直温が22歳で亡くなった後、若くして藩主の座を継ぐこととなりました。彼は11代将軍・徳川家斉から偏諱を受け、「矩典（とものり）」から「斉典」という新たな名前を授かります。

財政の厳しい時代

斉典が藩主になる当時、結城松平家は極めて厳しい財政状況にありました。その借財は23万6千余両に達し、1両を約8万円で換算すると、その債務は約189億円にも相当します。毎年の借入額は約4万両（約32億円）に上るという状態で、斉典の藩政改革はこの借金との闘いでもあったのです。

財政改革の取り組み

藩主に就任した斉典は、まず農村復興を目的とした財政再建に取り組みます。彼は「永続頼母子講」という金融システムを導入し、藩領民から掛け金を集め、その資金を使って困窮している人々に融資を行おうとしましたが、1838年にはこの試みは失敗に終わりました。

斉典はまた、天保2年（1831年）に町在奉行安井政章の提案を受け入れ、「新建百姓政策」を実施し、天保5年（1834年）には社倉制や蚕積金制などの改革を進めました。これらの政策は前橋分封領内で一定の成果を上げたとされています。

転封の試み

斉典は川越藩の経済状況を改善するため、更に良質な領地への転封を計画しました。多額の工作資金を使い、徳川家斉やその周囲に影響を与えました。特に家斉の二十五男である紀五郎（後の松平斉省）を養子に迎えたことは、転封の布石とされています。しかし、老中首座の水野忠成の急逝により、最初の転封計画は失敗し、その後も様々な交渉の末、肥沃な庄内平野への転封が実現することとなりますが、農民の反発などにより最終的に転封が撤回される事態となりました。

川越城本丸御殿の建設

嘉永元年（1848年）、斉典は川越城本丸御殿を建築しました。この建物は16棟、1025坪の大規模なものであり、今日でも残る川越城の唯一の遺構として重要視されています。明治維新後には多くが破却されてしまいましたが、現存しているのは玄関部分と復元された家老詰所のみです。

教育に力を注ぐ

斉典は藩政改革と並行して、家臣たちの教育も重視しました。文政8年（1825年）には藩校・博喩堂を開校し、教育の振興に寄与しました。また、天保15年（1844年）には、藩医・保岡嶺南に頼山陽の『日本外史』の校訂を依頼し、その成果は「川越版」と称されて高く評価されました。しかし、この版木は1945年の空襲で失われてしまいました。

年表と家族

斉典の生涯は、さまざまな歴史的事件や改革と密接に関わっていました。彼は1850年に54歳で死去しましたが、その功績は現在でも評価されています。その系譜も豊かで、正室や室に恵まれ、子孫も続いています。松平斉典の行動と改革は、川越藩の歴史に色濃く残り、彼の名君としての評判は今なお語り継がれています。

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