水野忠成

水野忠成：幕末期の政治家、その功績と影

水野忠成(みずのただあきら)は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した老中であり、沼津藩の第2代藩主です。通例、老中在職時の官名である出羽守で呼ばれることが多い人物です。文化14年(1817年)から天保5年(1834年)まで、実に17年に渡り老中を務め、幕政に大きな影響を与えました。

複雑な出自と出世街道

忠成は宝暦12年(1762年)、旗本岡野知暁の次男として誕生しました。その後、水野忠隣を養父として水野家に入り、家督を相続します。若い頃から才能を見せ、徳川家治に仕え、小納戸役や小姓などを歴任。天明5年(1785年)には従五位下大和守に任官するなど、順調に出世の階段を駆け上がっていきました。

その後、沼津藩主水野忠友の養子となり、藩主の地位を継承。奏者番や寺社奉行などを歴任し、11代将軍徳川家斉の側近として、その地位を盤石なものにしていきます。家斉への近侍は、忠成の後の出世を決定づけた重要な要素でした。

老中就任と幕政への関与

文化14年(1817年)、老中首座に就任します。これは「寛政の遺老」と呼ばれた松平信明の死後、その地位を継いだものでした。忠成は、義父である水野忠友が田沼意次派の人間であったことから、その人脈を引き継ぎ、幕政の要職に就きました。

老中在職中は、家斉から政治を委任され、幕政の責任者として大きな権力を握りました。その代表的な政策が、文政小判の改鋳です。この政策は、デフレ不況からの脱却に成功し、一時的な好景気を招きましたが、同時に空前の賄賂政治を招いたとされています。

蝦夷地政策と松前藩

19世紀初頭、ロシアの南下政策に対抗するため、幕府は蝦夷地の支配強化を進めていました。能力不足とされた松前藩は事実上改易され、幕府直轄地となりました。しかし、松前家は領地の回復を目論み、忠成に多額の賄賂を提供しました。忠成は将軍への諮問を挟んだものの、ほぼ独断で松前藩の復領を決定します。これは、忠成の政治手腕と、同時に賄賂政治の影を垣間見せる出来事でした。しかしこの決定は、その後、再びロシアの南下政策が激しくなった際に、幕府が蝦夷地を直轄地化する必要が生じることになり、その有効性に疑問符が付く結果となりました。

忠成を取り巻く事件と評価

忠成の政治姿勢は、後世において様々な評価を受けています。庶民の間では、「水野出て 元の田沼と なりにけり」といった皮肉交じりの歌が流行するなど、その政治手法は批判の的となりました。

実際、忠成は家斉の放漫な生活を諫めることなく、賄賂を受け取ったり、身びいきによる政治を行ったりするなど、現代の倫理観からすれば問題のある行動を繰り返していました。家斉の子の諸大名家への養子縁組の斡旋や、後に天保の改革を行う水野忠邦の登用なども行いましたが、それらは忠成自身の私利私欲と結びついたものだったと解釈されるケースも多いのです。

一方、文政小判の改鋳による財政改革は、幕府財政の改善に一定の貢献をしたことは事実であり、彼の政治家としての能力を否定することはできません。ただし、その方法や結果が、後世に大きな負の遺産を残したことは否定できません。

田沼家との複雑な関係

忠成の義父である水野忠友は、当初田沼意次の養子を迎え入れて田沼派の中心人物でしたが、後に田沼家と決別しています。忠成は老中として、かつて義父が離縁した田沼意正を若年寄に抜擢し、田沼家の旧領への復帰を後押しするなど、複雑な関係性を維持していました。これは、忠成の政治的な駆け引きと、同時に過去のしがらみからの解放を図った可能性を示唆する出来事といえるでしょう。

系譜とその後

忠成は、執権北条氏の子孫とされる家系に生まれ、徳川家康の異父弟松平康元の女系子孫という複雑な出自を持っていました。天保5年(1834年)、73歳で死去しました。跡を継いだのは三男の忠義です。

水野忠成の生涯は、出世と権力、そしてその影の部分を併せ持つ、複雑で興味深いものです。彼の功績と失敗を分析することで、江戸時代後期の政治状況や、政治家のあり方について、より深い理解が得られると言えるでしょう。

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