松平昌久

松平昌久（まつだいら しょうきゅう）は、戦国時代の三河国（現在の愛知県東部）で活躍した武将であり、大草松平家の4代目当主として知られています。

史料における記述には異同が見られ、『参州本間氏覚書』では昌久は法号であり、実名は忠親であるとされています。また、江戸時代中期に成立した系図集である『諸家系図纂』においては、親光という名で記録されています。このように、史料によって名前の記述が異なる点は、当時の記録の不確かさを示唆しています。

大草松平家は、元々は岡崎城を領有していましたが、昌久の父である松平信貞の時代に、松平清康に敗れて岡崎城を明け渡すこととなりました。その後、大草松平家は松平氏に従属するようになります。永禄3年（1560年）には、松平清康、広忠、元康（後の徳川家康）の三代に仕えた松平正親が、桶狭間の戦いにおいて48歳で戦死しています。

永禄6年（1563年）に三河一向一揆が発生すると、昌久は徳川家康に反旗を翻し、吉良義昭が拠る東条城に籠城しました。ただし、大草松平家は西山浄土宗を宗旨としていたため、反家康の行動は必ずしも信仰的な要因によるものではなく、一向一揆に直接的に加担したわけではないと考えられています。一揆勢は家康に対して激しく抵抗しましたが、翌永禄7年（1564年）2月に東条城は落城し、昌久はその後、消息を絶ったと伝えられています。

松平昌久は、徳川家康の初期における苦難の時代に、その勢力に抵抗した人物として歴史に名を残しています。彼がどのような考えを持ち、いかなる経緯で一向一揆に加担したのかについては、史料が限られているため不明な点も多く残されています。しかし、彼の行動は、当時の三河国における勢力争いの複雑さを物語るものとして、後世に語り継がれています。

近年では、NHK大河ドラマ『どうする家康』（2023年）において、角田晃広氏が松平昌久を演じ、その人物像に新たな光が当てられています。

参考文献
村岡幹生「大草・岡崎松平家の光重・貞光父子と初期の形原松平家」『愛知県史研究』 12巻、愛知県、2008年。
岡崎市 編『岡崎市史』 7巻、岡崎市、1929年。
新編岡崎市史編集員会 編『新編岡崎市史』 2巻、新編岡崎市史編さん委員会、1989年。
太田亮『姓氏家系大辞典』 1巻、角川書店、1963年。ISBN 9784040302003。
林英夫 編『愛知県の地名』平凡社〈日本歴史地名大系〉、1981年。ISBN 9784582490084。
高木昭作 著「松平氏」、国史大辞典編集委員会 編『国史大辞典』 13巻、吉川弘文館、1992年。ISBN 9784642005135。
『新訂寛政重修諸家譜』 1巻、続群書類従完成会、1964年。ISBN 9784797102055。
『徳川諸家系譜』続群書類従完成会、1970年。ISBN 9784797102574。

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