松江春次

松江春次

松江春次（まつえ はるじ、1876年1月15日 - 1954年11月29日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の実業家であり、南洋興発の創業者としてその名を知られています。彼は南洋群島における製糖業の発展に尽力し、その卓越した経営手腕から「砂糖王（シュガーキング）」の異名をとりました。

生い立ちと青年期

松江春次は、1876年に福島県会津若松市で旧会津藩士の家に生まれました。会津中学（現会津高校）では、後に細菌学者として世界的に名を馳せる野口英世と親交を深めました。1899年に東京工業学校（現東京工業大学）を卒業後、大日本製糖（現大日本明治製糖）に入社し、製糖技術者としてのキャリアをスタートさせます。

1903年には、農商務省の海外実業練習生としてアメリカ・ルイジアナ州立大学に留学し、製糖技術を研究しました。同大学院で修士号を取得後、全米各地の製糖会社を視察し、最新の技術を習得しました。

大日本製糖での活躍と転身

1907年に帰国後、大日本製糖大阪工場の工場長に就任し、日本初の角砂糖製造に成功するなど、その技術力を発揮しました。しかし、日糖事件の影響で会社が混乱したこと、そしてかねてより抱いていた台湾での製糖業への関心から、大日本製糖を退社します。その後、台湾の製糖会社で経営に携わりますが、会社合併などにより退社を余儀なくされました。

南洋興発の創業

1921年、松江はサイパン島とテニアン島を視察し、この地での製糖業の発展に大きな可能性を感じました。帰国後、南洋群島での製糖業による開発を政府や東洋拓殖に提唱し、その結果、1921年11月29日に南洋興発が設立され、松江は専務取締役として経営の指揮を執ることになりました。

南洋興発は、松江の卓越した経営手腕により、創業からわずか3年で経営を軌道に乗せました。テニアン島に製糖工場を建設したのを機に、松江は取締役社長に就任し、その後、事業を多角化することで、南洋群島における最大の企業へと成長させました。

松江は、従業員のために映画館や理髪店、演劇場などの娯楽施設を建設するなど、福利厚生にも力を入れました。1934年には、その功績を讃え、サイパン島に松江の銅像が建立されました。この銅像は、現在も砂糖王公園のシンボルとして残っています。

南洋興発退任後と晩年

1940年、松江は健康上の理由から社長を辞任し、会長に就任しました。1943年には相談役となり、南洋興発の経営から完全に退きました。戦後は公職追放となり、追放解除後の1954年11月29日、脳溢血のため死去しました。奇しくもこの日は、南洋興発の創業記念日でした。

家族と親族

松江春次の兄である松江豊寿は、陸軍少将であり、第一次世界大戦時に捕虜収容所長として、ドイツ兵捕虜に人道的な待遇を行ったことで知られています。長男の松江一郎は南洋興発の幹部を務めましたが、海軍軍人として戦死しました。

参考文献

武村次郎『南興史 南洋興発株式会社興亡の記録』南興会、1984年
中山定義『一海軍士官の回想』毎日新聞社、1981年
帝国秘密探偵社『大衆人事録 東京篇』（第13版）、1939年

関連事項

南洋興発
南洋群島
南進論
砂糖王公園
松江豊寿
* バルトの楽園

松江春次は、日本の実業史における重要な人物の一人であり、彼の生涯と南洋興発の興亡は、日本の近代史を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

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